+卵豆腐+
「ケホッコホッ」
「はい、38度。風邪。しかも重度。絶対安静ね。布団から出たら即クナイ飛ぶよ?」
「こんだけ熱出しておきながらよくもまぁ、さっきまで走りながら刀振り回してたな。お前本当は馬鹿だろう?」
「土方さんそらァあまりにも酷いでさァ。は生まれた時からウルトラジェット級の大馬鹿ですぜィ?」
「とにかく、絶対安静だぞ?何かあったら俺かトシ、山崎を呼ぶんだぞ?」
「あれ?近藤さん、俺が入っていやせんぜィ?」
「お前はこれから見廻りだっつーの」
「ちっ、せっかく大手振るってサボれると思ったのによ」
「ぁあ?」
「おいっ!;じゃあ、ちゃんと寝てるんだぞ?ほらっトシッ総悟!!行くぞ」
パタン
静かに閉じられた障子の向こうへと消えていった近藤、土方、沖田そして山崎。
廊下を歩きながら土方と沖田が言い争う声。
それがどんどん遠のいていくのを朦朧とした意識で捉えながら力なく笑うと、焦点の定まらない視線で自室の天井を見上げた。
体の中で鉛のようなものを感じ始めたのは3日前から
テロに警護。
いろいろなことが重なって起こったら、きっと疲れているんだろうなと早めに就寝するも、
体の鉛はますます重みも増すばかりで、昨晩からただ歩いただけ息が上がり始め。
そして早朝に起こった強盗事件。ふらつく意識をなんとか集中させて沖田とともに先頭きって
斬りこみ強盗を捕縛するも、パトカーに乗る寸前でパタリと倒れてしまった。
そして案の定降りかかる、労わりよりも呆れの言葉。
同じ激務をこなしているのは皆同じ事で、要は自己管理がなってないと咎められればそれまでで。
けれども、呆れながらも寝てろと小さく笑う近藤や土方達に早く治さなくちゃとはスッと目を閉じた。
どれくらい寝ていたのだろうか、まだ昼にはなっていないとは思う。
そうぼんやりしながら、妙に廊下が騒がしいのを感じ取ってうっすらと目を開けた。
ドタドタと、慌ただしくの部屋の前を走っていく数人の隊士が障子越しに伺え。
もっとよく様子を伺おうと体を起こそうとするが、上手く力が入らず、体を横向きにするだけが精いっぱいで。
それでも左腕を支えに起きあがろうと苦戦していると、障子越しに誰かが立ち止まった。
「、入るぞ」
「ふ・・くちょ?」
スーッと滑らかに障子が開き入ってきたのは先ほどの枕元で胡座をかき、盛大に呆れた溜息を吐き出した土方。
しかし、今の土方の表情には先ほどにはない険しく硬質なものが張り付いていた。
体を起こそうとするを片手で制止し「寝てろ」と発する口調もどこか硬い。
まさか何か事件が起きたのだろうか。
そっとを寝かしつけると、片手で捲れた布団をかけながら土方は口開く。
「ターミナルで爆弾が連発する騒ぎが起きた。
どこのバカかはわからねぇが十中八九攘夷派の仕業だろう。
これから出てくる。とっつあんの要請でほとんど出払う。屯所に残るのはお前と、数人の隊士だけだ。
・・・・・連れて行くわけねーだろばぁーか」
「うぅ;」
縋るようなの視線に土方の目が細まる。小さく唸るに鼻で笑うとゆっくりと腰を上げ
障子へと足を進める。
「お前は寝てろ。何かあったら残っている奴を呼べ。あいつらにはもう言ってあっから」
「ふくちょっ」
「ん?」
スーッと開かれる障子にはチクチクと痛む喉の痛みに堪えながら呼び止めれば、肩越しに視線が返ってくる。
「お気をつけて」
「おぉ」
パタンと静かに閉じられた障子に玄関口の方へと土方の影が消えていく。
しばらくして、遠くの玄関口から近藤と土方の配備指揮の声がかすかに聞こえ、数台パトカーのサイレンが一斉に響き、
そして遠のいていった。
そして訪れる静寂。
しかもほとんどの隊士が出払ったため、いつも以上の静けさには少し寂しくなった。
「寒い・・・」
ゾクゾクッと悪寒が体を駆け巡り、は身震いする。
これは本格的に風邪だと、自分の自己管理さがないことに情けなさを感じずにはいられず、
は布団を顔半分まで引き上げると朦朧とした意識のまま目を閉じた。
寒い ゾクゾクする
眠りに落ちてもわかる体を覆うゾクゾク感。
布団の中で丸まり両腕で己の肩を抱くが一向に体は温まらず、
どのくらいそうしていただろうか?皆が出て行ってからだいぶ経っているとは思う。
障子の隙間から染み込んでくる若干の外気さえも辛くて
寒い
押し入れからもう一枚毛布を出そうか。
けれども起き上がるのも煩わしくて、布団の中でカタカタと小さく震えながら毛布が欲しい、
でも動きたくないと葛藤が続く。
そうしている間も意識はボーッとしていて。
瞬間
何か温かいものに抱かれる感覚。は夢と現実の狭間で
「あぁ誰かが毛布をかけてくれたんだ」と
思いながらその温かさが染みで出てくる方へとすり寄るとスーッと意識を手放した。
温かい
けれど体中を駆け巡る鈍い痛みはを何度も浅い眠りからたたき起こす。
「ん・・お水・・」
それでも眠りにつく度に体が楽になっていく感覚には小さく息を吐き出すと、ポツリと呟いた。
もちろんそれは独り言で、ほとんど誰もいない屯所では返事が返ってくることもないわけで。
「水か?ちっと待ってろや」
「ん・・・・んん?」
ふと、縋りついていた温かさが遠のき枕上に置いておいた水差しを扱う音がぼんやりと聞こた。
[ひょっとして・・副長?
あれ・・でも声が違うような・・耳も聞こえづらいしなあ・・・
爆破事件片づいたのかな?]
閉じていた目を気だるげに開くと同時に温かいものが覆い被さる。
そして、口を塞がれる感触にはパッと目を見開いた。
「んん?!」
そこには顔面に迫った絶対ここ-屯所にはいないであろう、いや屯所にいたらいろんな意味でやばいだろう男のドアップ。
しかもちゃっかりと布団の中に入り込みに覆い被さっていて。
あまりにも突然なことにカチカチに固まってしまっているをあやすように、男の両手がゆっくりとの頭を包み込む。
合わさった口唇からゆっくりと水が流し込まれ。
コクン
小さく喉を鳴らすと同時に男の隻眼がゆっくりと開かれる。
絡み合う視線に男の口角が不敵に上がり、そこでやっとは覚醒した。
「ひゃあああっ!なったたた高杉ぃ?!わわわわ;」
「逃げんなよ」
緩慢な動きながらも必死に布団から這い出し、逃げようとするの腰に腕を絡めて逃げれないようにする。
何度も屯所に忍び込んではに会いに来ているというのにまだ慣れないのかと内心呆れながら。
ゆっくりと体重をかけ風邪のせいだけではないであろう真っ赤な顔のを覗き込めば、
居心地悪そうに視線を泳がしながらもそろそろと見つめてくる。
相変わらずの仕草、それがたまらなく愛しい。
「晋・・京に行ってたんじゃ・・・」
お前ンとこの瞳孔半開きが検問見廻強化とかしやがってマジうぜぇからよォ、京に行ってくらァ。
も来るか?つーか来いむしろ一生。
いや無理だから。
何顎しゃくりで指図してんの?
すっごい腹立つんだけど。
ていうか何でまた屯所に来てんの?やばいようちの警備網、
第一級テロリストふっつーに軽々行き来してんだけど。
ってなんで私もさも当たり前にお茶と茶菓子出してんだろ(T_T)
あ、なんだか悲しくなってきた;
の煎れる茶はうめェなァ
わ、ありがとv
京に行ったらの茶飲めなくなっちまうんだよ。
だから来い、つーか永遠に添い遂げろ。
お前は永遠に土に還れや我儘エロリスト。
と、屯所内の部屋で交わされたと高杉の甘〜い・・甘い?会話が6日前。
もしかして行かなかったのか、そう問えば「いや」と返され。
「江戸に残しておいた偵察のモンからよォ、
が風邪らしい、あれは2〜3日したら必ずぶっ倒れるって電信があってな?。
俺の女がフラフラだってェのに休ませてねぇのかよと屯所の奴ら皆殺しするつもりで来たわけよ」
「なんか何のために偵察置いてってんのとかいろいろ突っ込みたいんだけど、
とりあえず今皆出払ってて心の底からよかったとすっごい安心している私がここいるよ。うん」
「ククッ感謝しろよォ?泣かせたくねェし?ここがなくなったら多少は困るだろうから?
ターミナルに空砲爆弾若干本物仕掛けまくってウルセェ犬ども追い出してやったんだよ。
ゆっくり看病してやるぜェ?」
「お前かお前の仕業だったのか。しかも若干本物って;そっちがメインだろう」
「いや・・半分だったかもナァ?」
ククッと喉の奥で笑いながら、ごろんとの横へと避けそのままを抱き寄せれば、
むぅっと頬を膨らませながらも、そろりと擦り寄ってくる。
が、
「うわーっ;おまっ晋っ!はっ離れろー!」
「ってーなァ」
「風邪うつるー!!ってはわぁっさっきキス;あわわ;どーしよう;」
どんっと胸を両手で押され、コテンとの布団から高杉が締め出された。
すこしきつめに打った背中に、眼光を少し強めてを睨みつければ、
それどころではないっといったがワタワタと慌てている。
風邪薬飲まないとっ
あっでもこの水私が飲んでたから余計風邪うつっちゃうっ
ちょっ晋!?だるいとかない?!
「クッ・・ククク・・ハハハハッ」
上半身を起こして、手にした薬と自分を交互に見やるに思わず噴出す。
声を上げて笑う高杉には驚いたように固まった。
と、その時だ。
「隊長!?どうかなされましたか?!」
障子越しに騒ぎを聞きつけたのだろう、隊士の影が映る。
隊長格の上司であり、また女性でもあるの部屋の障子を無断で開けることはしない。
たとえ非常事態でも、かならず部屋主の了承がなければ開けてはならないと隊内で厳しく
しつけてある。
今回はそれが大いに助かった。
はビクッと肩を窄ませると、ガッと高杉の襟を掴んでじりじりと引き寄せながら
障子の外で控える隊士へと声を大きくする。
「うっううん!何でもないよ?!こほっ。目覚まし時計のアラームが入ってたみたい;
ごめんねっ大丈夫だからっ!」
消えた影に、は盛大に溜息を吐き出すとキッと布団で隠しきれなかった高杉を睨みつけた。
高杉は声を殺しながらもまだ肩を揺らして笑っている。
「お尋ね者が屯所で大声あげて笑うなっ」
「クックッ愛されてんなぁ?俺。ククッいいぜぇ?の風邪貰ってやるよ。ごとな。」
「いっそのこと重度のウイルスにかかってしまえ」
ていていっと両手で布団から高杉を転がし出すと、高杉はその反動でヨッと体を起こし布団の横に胡坐をかいた。
と、高杉が持ってきたのだろうか?今まで気づかなかったが、高杉が座っている横に保冷仕様な
小さいバッグが置かれている。それを開けながら口を開く。
「京によぉ、うまい豆腐があってな?どーしても俺ァ、に食わせたかったわけよ」
「お豆腐?」
上体を起こしたままきょとんと首を傾げるに、二ィッと楽しげに隻眼が歪む。
保冷バックから取り出されたのは、プリンやゼリーと同じような容器に入った豆腐。
それはシンプルな容器でフィルムの蓋には胡麻・豆乳入り・卵と書かれており、
「わあ」と思わず声を上げる。
「ん」と顎をしゃくりずいっと数個の容器を差し出す高杉。どうやらどれがいいと言っているらしい。
は「んー」と小さく唸ると、ちょんと一つの容器を指差した。
「卵豆腐がいいな」
ほかの豆腐をバックに戻し、卵豆腐のフタをあける高杉をニコニコと見つめながらも、
次の瞬間にはは少し寂しそうに顔曇らせた。
それを高杉が見逃すはずもなく。
「どうした」
「え?」
ハッとして顔を上げれば、真っ直ぐに自分を見つめている隻眼とかちりと視線が合さる。
そしてもう一度問うように目を細められ、は「う;」と小さく息を飲み込んで、項垂れた。
「ターミナル・・・本当に爆破したの?」
ぽそぽそと蚊の鳴くようなの呟き。だが静まり返った室内には十分に響き渡るもので。
毎日つきまとう高杉を散々苦手としていただが、少しずつ本当に少しずつだが、
は高杉に惹かれるようになった。
見廻りなどの公務中に見かければ抜刀して追いかけたりはするが、非番の時や
高杉が屯所に忍び込んできた時など、内心「捕まえなきゃ」と思いながらも高杉のペースに
狂わされ、けれどもそれさえも楽しく思えて。
少しずつ氷解していった高杉の先入観
少しずつ短くなっていった高杉との境界
少しずつ芽生えていった高杉への思い
けれどもテロリストと真撰組という自分たち置かれた肩書きは決して消えない。
たとえ高杉がどんなにを必要としていても、テロ行為をやめるには繋がらないのだ絶対に。
それはわかりきっていることだった。
けれども、やっぱり思いを馳せる人がそういう行為を繰り返していることは辛い。
しかも今回はターミナル。
天人や幕府だけではない、そこを利用する罪なき人々もいるはずだ。
きゅうっと布団の隅を強く握るしめるの手がほのかに白くなっていく。
それをチラッと見やると、高杉は何事もなかったように豆腐の蓋をゆっくりと捲り開けていく。
「あぁ、あったりめーだお前ら真撰組が俺達を捕まえるのが仕事なように、俺の仕事は
テロ行為だ。やめるつもりはねぇ」
それじゃあ、またたくさんの人が傷ついたのか
きゅっと唇をかみ締める。
「だが今回は全く意味がねー」
「意味が・・ないだと?」
ぽりぽりと呑気に頬をかく高杉に、チリッと心が粟立った。
キッと顔をあげ高杉を睨みつければ、挑発するかのように口角をあげ見据えてくる。
それにカッとなると、体中を蝕んでいた気だるさはいったいどこへ行ったのか、
は高杉へと飛び掛った。しかし挑発してきた高杉はもちろんの行動を読んでいたようで
逆に片手で腕を掴まれ、もう片方の手で首を掴まれる。
グッと首に掛けられた手に力が込められ、の表情が苦しげに歪んだ。
高杉が手にしていた豆腐はきちんと畳に置かれていて、その余裕さがさらにの憎悪を掻き立てる。
それを見透かすように、不気味に揺れる隻眼。
「おいおい、よォ・・・見舞いにきた亭主に襲い掛かるたぁそんなに飢えてんのかぁ?」
「・・・・るなよ」
「あ?」
「意味もなく爆破だと?ふざけるな高杉!!爆破に巻き込まれるのは天人や幕府関連者だけではない
民間人・・戦も知らぬ子供もいるんだ!!テロを起こす奴らなど嫌いだ!!だがそれも意思があるものとして、
攘夷を唱えるあんたらの苦渋の訴えとして捉えてきた。それを・・意味がなく起こしただと?!
貴様ぁ・・・ふざけるのもっ・・・・うっぐっ!!」
高杉の片手を両手で握り、引き離そうと試みるも。首を掴まれたままの上体で布団の上へと押し倒される。
首にかかった力に、げほっごほっと思いっきり咽せ。体に覆いかぶさられる圧力には必死に抵抗する。
「どけっ!!」
「どかねぇよ。ククッお笑いだぜ、かわいい顔そんなに怖くしてよォ。
そのふざけた野郎に惚れたのはどこの誰だったけ?なァ?真撰組副長補佐の よォ?」
「っ・・っ」
うっすらと目を覆う水膜は風邪のせいでも、高杉に首を掴まれているからでもない
高杉の言葉通りの自分がたまらなく嫌な存在に思えた。
けれども、それを目尻から零れぬように堪えて高杉を睨み上げる。
高杉は意思がわからぬ無表情でいまだの首を掴んだまま見下ろしていて。
ツッ
と、高杉の顔がゆっくりとの首筋へと降りてくる。
拒否しようにも体が動かず、はキュウッと目を閉じた。
「嫌うなよ」
「!?・・・っ」
「嫌うんじゃねェ。刀向けてもムカついても構いやしねェ・・・けどな」
嫌わないでくれ
拒絶しないでくれ
きゅっと高杉の腕がの背に回される。
自分を抱きしめる高杉は無表情。
なのにゆっくりと込められる腕の力には小さく目を見開いた。
人に疎まれ嫌われ蔑まれるなんざ、痛くも痒くもねぇ。
思想がないただの血に飢えた獣。
ハッ、言わせておけ。
そうだ
誰一人俺を見ちゃいねぇ
俺はあの頃から、いや・・生まれてからたった一人
銀時もヅラも俺を捕まえようと躍起になっている真撰組の奴らも
てめぇらが勝手に作り上げた「高杉晋助」しか眼中にねぇ
そんな奴らに忌み嫌われようが知ったこっちゃねえんだよ
けど
本当の俺を
俺自身でも気づかなかった本当の俺を
獣で覆い尽くされた本当の俺を
お前は見つけ出してくれたんだよ
たった一人ぼっちで、塵屑のように漂っていた俺を
お前だけが
なあ??お前は気づいているのか?
そうだ
お前は初めて会ったときから本当の俺を見ていた
お前と初めて刀を交えたあの時
「高杉晋助」ただそれだけ、その名前だけで戦闘態勢を崩し尻込みになる奴らの中
お前は一瞬で俺の刀の癖を見抜きやがった。
あの鬼の副長でさえ、俺を捕らえるのに我忘れて血走ってたてーのによ。
その次はお前が見廻りの時。
接吻されて自我放棄になりながらも、的確に俺の動向を読んで、
退路を塞ぎこんできた。正直焦ったんだぜ?
屯所に忍び込んだ時も非番の時も、会うたびにお前は俺を驚かせんだ。
そして、お前が俺に振り向くようになってから、お前はさらに本当の
俺を見つけ出してくれた。
なあ?
気づいてんのかよ
お前が初めて本当の俺に触れているということによ
「・・・・晋?」
そう愛称をつけて呼ばれんのも初めて
俺だけの名前。
お前にしか口にすることを許されないたった一つだけの名前
もう・・・手放したくねぇんだよ
一人にしないでくれよ
「嫌うんじゃねぇよ」
嫌わないでくれよ
「嫌わない・・嫌えないよぉ。
だって、誰より命の重さを知ってるのは晋なのにっ・・・」
嗚呼、お前だけだよ見てくれるのは
「なんで・・なんで意味がないなんて言うの?」
合された額から微かにの震えが伝わってくる。
両の瞳から悲しげに零れる銀色の雫。
けれどもその悲しみの中にもいまだ高杉に対する怒りの炎がチラチラと見え、
そんな姿さえも美しいと愛しい思わずにはいらない。
「・・・今日・・・召喚部燃料調整で全エリア休港なんだよ//////」
「え?・・・・・あれ・・そういえば、そんなニュースが前々から流れたような」
「俺にとっちゃあターミナルそのものも消してェくれぇ、うぜぇシロモノだ。だが
それも派手に、天人と幕臣共を巻き込んでやらねえと意味がねえ。
今日あそこに仕掛けたのは・・・その・・あいつらほとんどを誘き寄せるにゃあターミナルが一番
手っ取り早いんだよっ。のためとはいえ、ほんと意味ねぇーし
ほとんど空砲で爆弾といっても爆竹程度のものしか・・
俺はどうでもいんだけどよ!!・・・・・が悲しむだろ・・
その・・意味のねえ祭りに借り出されてあいつら怪我すんのは」
ぽそぽそと徐々に声を小さくし、珍しく目を伏せる高杉に
の顔はパアッと明を増していく。
「う・・うっ。晋〜vvv」
「/////っ・・なんだよっ」
「お豆腐食べさせろコノヤローッ」
「・・・・ククッ仕方ねぇなァ」
いつもどおりの笑顔が戻ってくる。
それに心底安堵して、を支えながら体を起こす。と、高杉はチラリとの首に視線を走らせた。
うっすらと赤く染まる跡。それは紛れもない自分の手が掴み力を加えてつけた跡。
それと同時に堪らなくどうしようもない感覚に襲われ、思わずそこから視線を外せないでいた。
それを気づくのももちろんで。
は「ん?」と自分の首を摩るとニタリと笑ってみせる。
「ふふーv晋との喧嘩は体調万全の時じゃないと負けるわねv」
そしてニッコリと花開くように笑うその笑顔。
気遣っているわけではない、の純粋な言葉に口が緩みそうになるが
決してそれを顔には出さずに、挑戦的な笑みで迎えうつ。
「いい度胸だ。それこそ俺の女だぜェ?」
「何あんたさっきから、付いて来いとか亭主とか晋の女とか自惚れんのも大概にしやがれよ高杉コノヤロー」
スプーンに乗った豆腐が差し出される、それを少し恥ずかしそうにはにかんで口を開けば、
ふんわりと甘さをもった卵豆腐が舌の上で転がった。
「そういやァ・・・風邪だったんだよな?」
「喧嘩売ってるのか?売ってるんだな?よーし2ラウンドだ。晋そこに直れ」
一方ターミナルでは。
「くそっどうなってんだ!空砲に爆竹だけじゃねえか・・ガキの悪戯かぁ?!」
「今日はターミナル全フロア休港。志士ならそんな時テロ起こしても意味がねえや」
ニュースになってもせいぜい「昨日の出来事10ランク」の1〜2分枠で済まされてしまいまさァ
沖田の言葉を横に、土方は苛立ち気に煙草の煙を吐き出す。
それでもフロアいっぱいに散らばった空砲爆弾や爆竹の残骸の片付けに隊士総出で追われていて。
ガキの悪戯にしては全フロア隈なく仕掛られた空砲と爆竹の数もさることながら手が込みすぎている。
しかしテロにしては、ガキ染みたものを使う。イライラと「ったく、なんだってんだ」と
悪態をつく土方の隣では近藤も、なんともいえない表情でフロアを見渡していて。
「局長ー!!副長ー!!」
最上階の動力室の様子を見に行っていた山崎が、やや焦ったように戻ってきた。
その手には文らしいものが掴まれている。
「おう、どうだった上は」
「動力室にも空砲が仕掛けられていましたが、ターミナル運営には支障はありません」
「ったく、本当になんだってんだよこの事件は」
ホッと溜息を吐き出す近藤の横で、土方はますますわからんと唸る。
そんな土方の様子に少し青ざめながらも、山崎はハッとしたように手にしていた文を近藤へと差し出した。
「動力室でこんなものを・・・誰が仕掛けたかは不明ですが、
真撰組が来ることは予想していたみたいです」
近藤が受け取った文には、毛筆で「幕府の戌共」と書かれていた。
一瞬眉を潜め覗き込んでいる土方へと視線を向ける。大袈裟に肩を窄めてみせる土方から
再び視線を文へと戻すとパララと文を開いた。
ばぁーか
の看病はしててやるから、てめーらはちゃんと片付けろや 高杉
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「あのテロリストぉぉぉぉぉ!!」
「高杉?これあの高杉?ちゃんの恋人のじき僕達の弟になるかもしれない高杉君んんんー?!」
「誰がをあいつに嫁がせるかぁぁ!!!おいぃ!山崎ィ総悟ォ!!即効で屯所戻るぞぉぉぉぉ!!」
カッと瞳孔を開き殺気を撒き散らし、パトカーへと乗り込む土方にわたわたと山崎と近藤が続き、
その後をのんびりした足取りで沖田がついていく。
どこをどう走ったのか・・・助手席に乗っていた山崎は運転する土方が地獄の鬼そのものに見えたという。
屯所の廊下をドタドタと走る。目指すはもちろんの部屋だ。
「ー!!無事かぁぁ!!」
スパアアアンッ
「!!」
「ちゃんっ」
「さん?!!」
「〜?」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
「すぅー・・・・・・」
勢い良く開け放たれた障子に駆け込んでいく土方、近藤、山崎とのんびり部屋を伺う沖田。
そこには穏やかな表情で眠るの姿。
土方と近藤は顔を見合わせて屈みこむと、の顔を覗きこみそっと手をの額にあててみる。
まだ熱は完全には下がってないようだ。
室内を見渡すが特に変わった点はない。
「変わりは・・ないな」
「ハッタリだったのかな?」
「さあ・・・。まあ、が無事ならいい・・・戻るか」
土方は近藤と連れ立っての部屋を出ると、そっと障子を閉めた。
再び訪れる静寂。
しかし、土方も近藤も山崎もそして沖田も気づかなかった。
部屋の隅に置かれた保冷バックに。
の表情が熱で辛いはずなのに、とても穏やかなことに。
今日の出来事は二人だけの秘密
「早く治せよ?京に連れて行けねぇからよ」
「ありがとう晋」
二人だけの呼び名があることもまた秘密
それはまるで卵豆腐のように、ほんのり甘くてまろやかな・・・・
何これ長くない?えっらい長くない?!
「好きも嫌いも紙一重」の続編です。ただちゃんの看病のつもりが
途中で紅桜編読み耽っちゃって、いろいろ加筆。すいません意味わからなくなりました。(還れ土に)
なんというか・・高杉小説書くと土方さん出ばりまくるんですけど。その逆も然り。
素直じゃない・根は優しい・エロリストこれ私の高杉三原則v
なぜ豆腐?というのは京=湯葉=豆腐の概念がめたんこ強いから私が。それだけ。
なぜ卵豆腐?なんか風邪に良さ気じゃん?(卵粥と似たようなもんさ)
2007年1月14日執筆