「ひとつ・・・お聞きしてよろしいか」
「なんだ」
+呼べぬなら夢の中で呼んでみよう君の名を+
始末書の整理に追われる俺の背に凛とした声がかかる。
意識と視線は書類に落としたまま、声だけ書類整理の手伝いをしている部下へと向けた。
再びよく通る高くも低くもない、心地よい音程の声が鼓膜を振動させる。
「一見、これらすべての書類は副長が手を煩わせる必要のないものに見受けられるが」
肩越しに後ろを振り返れば、声の主。
真撰組内で唯一の女隊士− が一枚一枚書類を取りながら畳の上に
「沖田」「原田」「沖田」「沖田」「沖田」「原田」「局長」「沖田」
呟きながら書類を名前ごとに分けていく。
俺からの返答がないのと、手にしていた書類を分け終えたのを機に俺へと顔を上げるの顔は
どこか不満気
深い溜息を長く吐き出すと、書類を手に取り立ち上がりの横へと胡坐をかいて腰を下ろす。
にならって手元の書類を、置かれている書類の上へと新たに重ねていく。
「総悟」「総悟」「近藤さん」「総悟」「総悟」「近藤さん」「原田」「永倉」「総悟」「総悟」「総悟」「総悟」
呪文のような名前の羅列と紙が擦れ合う音が、妙に空気を重くする。
分け終えると同時に、思わず溜息がついて出た。
と
「うおっ!・・・は?・・おっおい?!」
額に手を置き、まだ山のように残っている書類を思い出していたら
急に腕を掴まれ、視界が揺らいだ。
俺の視界には自室の天井
それと
俺を見下ろすの顔
の膝枕で寝転がされている状況に、柄にもなく慌てて起き上がろうとするが、
ふわりとが上着を脱ぎ俺の体にかけたのに気を取られ、起き上がりそびれちまった。
何の真似だ?
そう口開く前にの不機嫌な声が振り注ぐ。
「部下として忠告する。
副長は組の責任は負えども、部下個人の尻拭いをする必要はない。
そんなことをしている余裕があるのならば、少しは己を労わってもらいたい。
疲労感を露に命令を下されてはこちらの士気に関わる。」
凛
研ぎ澄まされた言葉が心地よく耳に染み込んでいくようだ。
「んなに、酷い顔をしているか俺は」
「常に(発狂したら即昏倒させる心構え)を持っているほどに」
さらりと恐ろしいことを抜かしやがる;
くしゃり
そっと撫でられた頭からの温もりがゆっくりと伝わり、
ノロノロと瞼が重くなってきやがった。
やべぇ・・・
「悪りぃ・・ちっと寝かしてくれや」
「承知」
瞼を完全に閉じる瞬間、が小さく微笑んでくれたような気がした。
あ、もう一度見てぇ・・・こいつ滅多に笑わねんだよ。貴重だぜ?
そう気持ちは募るも俺の意識はどんどんと遠のいていった。
「相変わらず自分を省みぬお人だ、貴方は」
なんか言ったか?あー・・もうわかんねぇや・・・
スーと小さい寝息を立てる貴方の寝顔に思わず微笑みがこぼれる
本当に心配しているのですよ?
貴方はいつだって自分を労わろうとしない
貴方を心配する部下の身にもなってください
「ん・・・きだ・・・」
「?・・・寝言か?」
「」
「っ/////」
30分後、だいぶ頭がすっきりして起き上がった俺はに礼を言ったが、
なんだか
の顔が赤いように見えた
え;俺なんか変なこと口走ってたか?;
まあいいか、
まだ山になっているだろう書類へと視線を向ける
あれ?
ねえ・・・・・
それを問おうと振り返れば、上着を着たが部屋から出て行くところだった。
「先ほど沖田達に渡しておいた」
それだけ残しては部屋から出て行く。
パタン
静かに閉じられた障子が妙に寂しい気分にさせられた。
意識朦朧としてた中で浮かんだの笑顔に、いつもは呼ばない下の名前を
心の中で呟いていた。
もしそう呼べる時がきたら、お前はどんな反応するんだろうなぁ
その後、あんなに俺が怒鳴り散らしても手すらつけなかった書類を
まさか総悟(筆頭)がやっているとは思わず、覗きに行ったら
いつもは涼しい顔で毒を吐きやがる総悟が、
命の危機迫った顔面蒼白な顔で文机にかじりついていた。
何したんだ;
クールで上司に従順なヒロイン。
たまには土方さんを休ませてあげようみたいな。
ちょいと某漫画達&映画ドラマの斉藤一を意識してます;
(2006/12/24執筆)