「んん・・・あれ?」


「お。目ぇ覚めたかー?」












+歪な五芒星 4+













閉じられている瞼に光が差し込んでくる感覚に目が覚めた。
そっと開いた視界いっぱいに飛び込んできたのは、眩しい銀色。
聞き慣れない、やる気のなさそうな声に、
私はここが自分の家でないことを思い出した。


「っごめんなさいっ、様子を見ると言いながら、寝てしまいましたっ」


慌ててソファから起き上がり狩衣を整える私に、
坂田さんは「あー」と意図のわからない声をあげた。


「いいのいいの。あれから新八も気持ちよさそーに寝てたし、えっとちゃんだっけ?
君新八みてもらう前にも妖怪退治してたんだろ?
そらあ疲れるわな」







あんな鬼のような化け物退治してたらよ







ポツリと呟かれたた言葉の続きに目を擦っていた手を止めて、バッと顔をあげる。


「見え・・たんですか?」


あまりの驚きに声が震えた。
昨晩、新八君に取り付いていたのは紛れもなく鬼だった。
いつもなら強制的に取り付かれた人から妖を引き離し、出て来たところを調伏している。
その方が取り付かれた人の負担も少ないから。
けれど昨晩は坂田さん達が居間といってもかなり近い場所に待機していたのを
危惧して念術のみで取り払うことにした。
鬼の姿が現さないまま調伏したのだ。
だから鬼の姿なんて見るのは不可能に近い。
私とよく調伏に付いてきていた晋助ならもしかしたら見えるかもしれないけど。
ぽかんと見つめてくる私に坂田さんは「え・・何見えちゃまずかったの?銀さん取り付かれちゃう?」と
少し焦ったようにポリポリと頭をかいた。
そんな様子に「大丈夫」と落ち着かせるように宥めたら、心底安心したような坂田さん。


「あれ・・・晋助・・・桂さんと神楽ちゃんも・・」


そういえば人の気配があまりしないと思い、家の中を見渡した。
新八君が寝ている和室からはもう一人人の気配ががするから、おそらくお妙さんだろう。
しかしそれ以外の、馴染みの気配がなく首を傾げる私に、坂田さんは「ああ」と頷いた。


「高杉とヅラは朝方に出て行ったよ。一応あいつらお尋ねの身だからな。
神楽はマダオに呼ばれてって・・・人に会ってる」


「そう・・ですか」



晋助行っちゃったんだ・・・。


それから私は新八君の様子を見に和室へと顔を出した。
少し疲れた表情のお妙ちゃんが私に気づいて、小さく笑う。


さっき、弱っているけど意識を取り戻したの。今はまた眠っているわ。



「本当にありがとう」と再三お礼を言われて、私は少し気恥ずかしく笑った。
これならもう大丈夫だろう。
私も早く帰って少し休もう・・・・そう坂田さん達に告げ玄関へと足を向けたら
後ろからひょこひょこと坂田さんがついてきた。
首を傾げる私にニッと笑ってみせる。




「腹減ってんだろ?」
























ちゃんって高杉の彼女なの?」


「!!こほっ・・・」



ファミリーレストラン。
パフェをつつきながら銀ちゃんが突然興味津々の表情で聞いてきて、
きのこ雑炊を口に入れた瞬間だった私は思わずむせそうになり、必死に押さえ込む。
(レストランに入ってすぐに「おれのこと銀ちゃんて呼んでよ」と言われた)



「なっ・・何?え?誰が?誰の?何ための召使い?!」

「いや召使じゃないから、メイドさんなら銀さんも好きだけどね」

「メイドさんはやっぱりクラシカルなロングワンピースがいいですよね」

「いやいや銀さんはギリギリラインのスカートなんか燃えるね。って逸らしてない?明らかに逸らしてない?」

「着物にフリルエプロンもかわいいなぁ」

ちゃーん!!トリップしないでぇーちゃんと質問に答えてみようかぁ!」


メイドさん・・とうっとりしながら頬杖をつくに、銀時は焦ったように身を乗り出した。
ぶんぶんとの目の前で手を振って、現実逃避しているを引き戻そうと必死の銀時。



「晋助のメイド姿見るなんて罰ゲーム以上の拷問ですよね。むしろ拷問そのもの?」


「いやっそれ見るよりも着せられてる高杉の方が拷問だからよ」


「それに猫耳と尻尾なんかつけてさ、「お帰りなさいませvご主「俺が悪かった!?彼女といった俺が悪かったから!想像させんな!!」


うえー気持ち悪ぃと水で喉を潤す銀ちゃんににっこりと笑うと、引き攣った笑みを浮かべる銀ちゃん。



「ま・・でもそのなんだ。親しいんだろ?」


数回会っただけじゃあんな危険なこと頼めないだろーしよ


チラリと私を捉える銀ちゃんの目が妙にまっすぐで、私も頬杖をやめて居住まいを正しこくんと頷く。



「うん・・かれこれ2年かな?京都で。私は妖の調伏以外にも霊媒や風水も
仕事にしていて、裏社会に詳しい晋助からよく仕事の依頼を受けているんです」


裏社会は魑魅魍魎が好む場所なんです。


そう付け加えると、銀さんはへーと頷きながらパフェを口に運ぶ。



「じゃあ、あいつが何やってるかも知ってんの?」


「うん。世界をぶっ潰すーとか天人と手を組むーとか、坂本さんから新たに武器と戦艦を買ったーとか
船を壊された恨みはぜってー晴らしてやるーとか?」


「いやちょっと待って?そこまで知ってて高杉と仲良くしてんの?
って、最後の言葉はもしかして俺じゃね?うわー貴重な情報ありがとー用心するわ銀さん」


ひくりと頬を引きつらせる銀時に、はきょとんと目を丸くして首を傾げた。
そしてすぐに納得したようにあっと声上げる。


「銀ちゃんのことだったんだー。ま・・大丈夫だと思うよ?
お酒飲みながら楽しそうに言ってたの。まあ・・そりゃね目的もなく
そんなことするんだったら、私が一発頬にお見舞いして止めるけど」




晋助の思いは・・・誰にも受け止められないほどに


重いものだから・・・・・





そう儚く笑うに銀時は目を瞠った。
ご馳走様でしたと丁寧に手を合わせるに、ああと頷きながら備え付けの
ナプキンへと手を伸ばす。口元のチョコをふき取りながら顔に出さないように微笑む。







高杉のヤローこんなかわいい子と仲良いなんて銀さんジェラシーだぞ、コノヤロー。





あいつの心がわかるほどに、高杉はに心を開いているのか

そう思うと銀時はなんだ嬉しいと思うと反面、高杉が憎らしいと思わずにはいられなかった。


「自分の食べた分は自分で出す」と眉を顰めるをレジから遠ざけながら勘定を済ますと、
二人はゆったりと足取りで公園まで散歩することに決めた。
銀時自身、にたいへん興味を持ったし、微かな好意もあったのでこのまま別れるのは
なんとも惜しい。



「え?じゃあも、俺達と同じ西の戦場にいたのか?」

「うん、そうみたい。晋助に聞いて私もびっくりしたよ。でも4回目の戦が始まってすぐに私は
負傷して戦場から離脱したの。私達陰陽師は天人とも攘夷志士とも関わりを持たなかったから
知るはずもないんだけどね」



そんな話から他愛のない会話がぽつりぽつりと交わされ、それが妙に心地良い。
ふとは隣を歩く銀時を見上げた。
太陽の光を受けてキラキラと光る銀髪に思わず手が伸びる。
気だるそうな銀時の表情がさっと驚きに変わり、を見下ろした。


「え?何?ゴミでもついてた?」

「きれい・・・」

「え?」

「銀ちゃんの髪。キラキラ輝いていてとても綺麗」

「っ・・///////」


自分を見上げてくるの表情はとても穏やかそのもので。
このクセの強い髪は嫌いだった。他人に髪を褒められたこともない。
むしろその逆で、バカにされるか笑われるだけだった。
それを目の前の少女は綺麗と羨望の眼差しを銀時に向ける。
固まってしまっている銀時にはきょとんと首を傾げた。


「銀・・ちゃん?」

「ストライク」

「え?」




どーするよ、銀さん!
鷲掴みだよ、掴み取りだよクレーンゲームなんてお前、そんな生ぬるいもんじゃねぇぞこれは。
やばいって、ハート狙い撃ちだよ山本リ○ダだよ一発命中隣のヒットマン、クリーンヒットだよ



「ぎっ・・銀ちゃん?」


「/////ちゅわぁぁぁんvvvvvv」


「うわっ//////」




「天下の往来で何堂々とわいせつ罪遂行してんだよてめぇは。
しょっぴくぞ、つーか今すぐ切腹しろここで」


「ぁ、土方さん!」



「んあ、じゃねぇですかィ」


「ぇぇ!ちゃんいるのぉぉぉ?!vvどこどこっ・・・・・て
ちゃんに抱きついてんだぁぁ!万事屋ぁぁぁぁぁぁぁl!!!」



背後から低い声が振ってきて、振り向けば、昨晩出会った土方が咥え煙草をしながら
銀時を睨みつけていた。そしてその土方の後ろには沖田と近藤。
土方を見とめ、にこりと笑うに土方はわずかに口端を上げて見せると、ベリッと音が聞こえそうな
勢いで銀時の襟首を掴みから引き離す。



「ちょっとちょっと多串く〜ん?何すんのよ?え?ひょっとしてジェラシー?
ちゃんは渡さないよ?」


「誰が多串だてめぇっ!!いい加減に人の名前覚えやがれ!なんでてめぇがと一緒にいるんだよ!!あ?!」


「あれ?多串君、のこと知ってんの?」


「万事屋!!ちゃんはなぁ!!今は一人しかいないであろう陰陽師なんだぞ!!
はっ!ちゃん?こいつに変なことされなかった?」


を抱き寄せながら近藤が声を荒げる。ハッとして心配そうにの顔を
覗き込む姿はまるで、我が娘を心配する父親のようだと、沖田は思った。
すごい剣幕の近藤には一瞬目を丸くするも、すぐさまフルフルと首を横に振った。



「違うの近藤さん。銀ちゃんのところの新八君がね?妖にあてられて・・
頼まれて払ったの。今その帰りで銀さんに送ってもらっていたところなんですよ?」



土方と近藤の目が今にも腰の刀に手をかけて、銀時に斬りかかりそうな気配だったので
は慌てて、説明する。土方と近藤はそれでも不服そうな表情だったが、「そうなの?」と近藤は
念を押すと銀時へと視線を向けた。


「新八君大丈夫なの?」

「おぉ。がしっかり払ってくれたからねー」


のほほんと答える銀時に、土方は不思議そうに首を傾げた。


「つーかよ、よくに会えたよな」


俺達でさえ陰陽師存在を知ったの昨晩なんだぜ?

そう続ける土方にはくすりと笑う。



「うん、晋助が銀ちゃんの知り合いだったの」

「おまっバカっ!!」

にっこりと笑うに銀時は慌てての口を手で塞ぐ。
が、の言葉はすでに土方の鼓膜を振動させていた。


「しんすけ?・・・・おい・・それって・・」



土方の方眉がぴくりと上がる、微かに瞳孔が開かれを捉える。
銀時は内心ヒヤヒヤしながらも、背にを隠し、土方を見据えた。


「大串君。落ち着けよ・・高「しんすけってお前の彼氏なのか!!」


銀時の言葉を遮りながら銀時の肩を掴みどかすと、土方はガッとの両肩を掴んで
そのぽかんとした顔を覗きこんだ。



「おいっ!!俺は聞いてねえぞ!そいつは何モンだ。お前のなんだ!!」

「そうですぜぃ!!そいつは何なんでぃ。彼氏だったらぶった斬ってやりまさぁ!」

ちゃん!!だめっ!お父さんに紹介できない彼氏なんで認めません!!」



土方に続いて、沖田と近藤も身を乗り出す。近藤にいたっては滝のように涙を流しながら
を揺さぶり。
がくんがくんと揺さぶられ、目を回し始めたに銀時は慌てて、近藤の背中を蹴り飛ばす。
ごへっと近藤が地面に沈没するのを横目で見やりながら、の肩を抱き寄せた。
半分目を回しかけているがへなへなと銀時によりかかる。


「ぎぎぎぎ・・銀ちゃーん〜」


「うを;大丈夫か?おいてめーらよぉ。何かよわい女の子によってたかって・・
しんすけはなぁ、俺のガキん頃からの馴染みなんだよ。ちょっとした詐欺まがいの霊媒師なのっ!
しんすけとはいわゆる同業者って奴でよ。新八に取り付いたのを取り払うのにしんすけには
手が負えねーっつんでを紹介してくれたんだよ」



よって、に彼氏はいねーの!!俺がなるの!!




の肩に手を回し、むんっと胸をはる銀時に土方と沖田はぴたりと止まった。
納得すると同時にすぐさま、眉を顰めて銀時にくってかかる。



「なぁに夢見てんだぁてめー!!」


「旦那、夢見るには早い時間ですぜぃ。そうかぃ永眠したいってかぃ」



そしてすぐさま復活した近藤が加わり、天下の往来で大の男が四人、ぎゃあぎゃあと争う様に
少女がおろおろと宥めていたとこの日のかぶき町はこんな噂が飛び交っていた。












その後、と別れ疲労感露に帰宅し、玄関を開けた銀時の横にビンッと矢文が打ち込まれた。
ハッとして振り返るも何も見つからず、怪訝に思いながらも矢を外し文を開く。
そこには





誰が詐欺まがいの霊媒師だコラ
に手出したら殺すからな。







とまさに怒り殴ったような文字があった。
ひくりと口端が痙攣し、銀髪が揺れる。



「・・・・ライバルたくさんだなオイ」




クシャリと文を握りつぶしながら、銀時は小さく笑った。
何か楽しくておもしろいことが起きそうな予感に、胸を躍らせながら。




一人の陰陽師が多くの者の思いを変えた





それが大きな力になるとは今はまだ、




誰も知る由もない。












久しぶりの更新・久しぶりすぎだって。
更新したにもかかわらず、なんかこうスランプってます感がありありなんですけどね;
とりあえずここまでが序章みたいな感じで、次回からは短編連載風に進んでいきたいと
思います。
珍しく構成がある連載なので(プリンセスもですが)更新遅いながらも
まとまりのある連載にはなる・・・はず(自信なさげ)


2007/05/03執筆