「おい土方ぁ!!ぜっんぜん足らねえよ。もっと持ってこいや」



「お前何様ぁ?!」



「青龍様」



「おい総悟、焼酎持って来い。世にも珍しい龍の酒漬けだ」






















+歪な五芒星 2+













真選組屯所。
先ほどの少女を客室へと招き入れ、胡坐をかいた土方はクワッと目を見開いた。
土方の隣には沖田、そして彼らの前には − − と名乗った少女と小さな龍。
青龍と呼ばれた龍は腹が減ったと握り飯を所望し、すでに八個は平らげていて。
それでも足りないとぶーたれる龍に、「ふざけんな」と土方は青龍を睨みつけた。


さんが食べるならともかく、なんで肩に乗ってただけのてめーが食ってんだよ!!!
つーかさん全然食べてねーじゃん!」


「腹減ったんだよ、ごちゃごちゃ言わずに早く作ってこいや、割烹担当さんよ」


「てめぇ・・・輪切りになりてぇか?あ?いっそのこと蒲焼?」


「ほぉ、俺に刃向かうか人間」

ピキッと青筋を浮かべ鯉口を斬る土方をを見やりながら、青龍は前足で器用に握り飯を食べながら
ニヤリと笑う。は呆れたように小さく息を吐き出した。




「割烹担当さん、俺ァひつまぶしがいいでさァ、山椒たっぷりかけてくだせェ」


「割烹じゃねぇぇぇぇぇ!!」


「俺は鰻かぁ?!お前らっ神族に向かって随分な口の聞き方だなおいぃ!」



ニタアと口開く沖田に、土方と青龍が同時に声を荒げる。
青龍も額に青筋を浮かべ、チッと鋭く舌打ちをした。



「ったく、警察だってーから来てやったのになんだよこの対応。一般市民舐めてんのか?」


「てめぇこそ警察舐めてんのか?ココは大衆食堂じゃねえんだよ。つーか、てめえ人間じゃねーじゃん
鰻の分際で一般市民装うなよ」


「なあ、。こいつ丸焦げにしていい?していいよな?むしろ炭屑?」


「はいはい、そこまでにしてね?青龍。・・・・・・あとはいいから、休んで?
また何かあったら呼ぶからさ」


土方の言葉に半眼でを見上げた青龍に、は盛大に溜息を吐き出すと、
すっと人差し指で青龍の顎を優しく撫でた。
くすぐったそうに青い瞳が細めるが、さらに紡がれたの言葉にきょとんと青龍は
を見上げる。



「いいのか?これから局長って奴に会うんだろ?俺もいた方がいいんじゃね?」


「ん。でもほら青龍、ここに降りてきてから一週間はたってるのよ?」


「・・・まあな・・。そろそろ辛くてよ。じゃあ、また呼べよ?」


「うん。ありがとう。百虎にもよろしくね」



瞬間、小さな龍の姿が忽然となくなり、土方と沖田は思わず息を呑んだ。
そんな二人にはにっこりと笑う。




「青龍は神族と呼ばれる、末端ではありますが神の一族です。神々は清浄な神界に住んでいますが、
時折、人間界へと降りてくる時もあります。ですが、神々にとって人間界はあまり
居心地のいい場所ではありません。
あんなバカみたいにおにぎりを食べてたのも、一種のストレスで・・・
すみません・・・・」

申し訳なさそうに頭を下げるに、土方と沖田は顔を見合わせた。



「いやっ、あんたが謝ることないって!!つーかあれ・・青龍っつったけ?
ストレスっつーより性格だろ絶対あれ」


「はは・・まあ;・・・。それより私にお話があるって?」


「あ・・あぁ・・。今な「トシィ!!陰陽師がいたって本当かぁぁぁぁ!!!」


スパァンッといい音を立てながら障子が開かれ、土方より年上だろう短髪で体格のいい男が
慌てたように入ってきた。
目を丸くしているに気づき、男は一瞬きょとんと首を傾げる。
もぱちぱちと数回瞬きをすると、目の前で突っ立ている男同様にきょとんと首を傾げた。



きょとん


きょとん


お互い首を傾げたまま、瞬きだけする二人に土方は呆れたように息を吐き出す。



「近藤さん座れって」


胸ポケットから煙草を取り出しながら、座布団を進めれば近藤と呼ばれた男はようやく
我に返ったのか、いそいそと座布団の上に座った。
しかし近藤の視線はから離されない。
ふーっとゆっくり紫煙を吐き出すと、土方はまずを紹介し、先ほどの一件を細部に渡って話した。


妖を見たこと
に会ったこと
が不思議な術で妖を調状したこと


見たことありのままに。
近藤は非常に驚いた様子だった。どうやら近藤の中の陰陽師のイメージはかなり
堅い屈強なものだったため、俄かにが陰陽師たとは信じられなかったようだ。
しかし、旧知の友が冗談を言うにはあまりにも真剣な表情で話すので、近藤の表情も段々と真剣な色へと変わっていく。
土方が話し終えると、近藤はしばし思案しへと視線を向けた。




さん、大切な友を助けてくださり本当にありがとうございます」


深々と頭を下げる近藤に、はまたきょとんと目を見開いた。



「え?あ・・・・その・・はあ;・・・・あの頭あげてください?
私は陰陽師としての職務を果たしたまでのことです」


「だが、俺にとってはこいつらはなくてはならない存在。
もし貴女があの場所にいなかったら、トシや総悟も無傷では済まされなかったでしょう」


真剣な表情。心より土方と沖田を大事にしているのだろう。
は近藤から滲み出る、普通の人では見るこのない、いや陰陽師だからこそみることのできる
オーラを見た。朱色の熱いオーラ。あぁこの人は何に対しても熱い志を向けているのだろう。
自然と笑みが零れるに、近藤はもちろん土方と沖田も一瞬頬が熱くなるのを感じた。


「よかった・・・そう言ってくださると私も陰陽師として使命を果たせたこと
誇りに思えます」


土方と沖田とは数時間、近藤に関しては数十分。短い時間での出会いだったにも関わらず、
いつの間にか一同は楽しく談笑していた。




彼女は紛れもなく正真正銘の陰陽師だった。
土方は先ほどのの話を思い出しながら、チラリと目の前のを捉える。

数年前の攘夷戦争で、は最年少ながらも有能な陰陽師として妖と対峙するも、
天人によって怪我を負い、そのまま戦場から離脱。
故郷の山奥で、治療とさらなる修行を行っている間に戦は終わりを告げ、
仲間達はほとんど死に絶えたという。

家族・仲間・友人全てを同時に失い、生きる術も失いかけたに顔を顰めたが、
はあっけらかんとしてケラケラと手をパタパタと振った。



「悲しいとか恨むとか・・もうこれっぽっちもないんです。あの時は攘夷志士も天人もそして
我々陰陽師も必死だった」




それぞれの想いがあった







そう、儚ない笑みを浮かべると一呼吸をしてはスッと顔を上げた。
先ほどの楽しげな笑みはすっかりと消え、どこか緊迫した空気が室内に流れる。
近藤達もの表情を読み取ったのか、スッと笑みを消した。




「幕府関係である貴方がたはご存知かと思います。最近起きた事件のことを」





人間と天人が無残に殺され、また神隠しにあっている事件が密かに江戸を脅かしている





「そこに異形の影があることを、幕府は知っていますね?」


事件は無差別テロリストか?と報道されており、妖の仕業であることは国民達にはもちろん
メディアにも伏せられていた。
近藤と土方は顔を見合わせて一瞬躊躇するも、目の前の妖専門である陰陽師を誤魔化せるはずもなく
渋々と肯定の意を表す。



「はい。ですがこのことは真選組でも俺達三人ともう一人、監査方のみなんです、
どうか、公言は・・」


「わかってます。それに妖を信じる者は少ないでしょう。ですが・・・時間の問題ですよ?」



「どういう意味だ?」










































「送ってもらうなんて・・ほんとありがとうございます」


「いいんだって、気にすんな」


あの後、そろそろ失礼しようと口を開いたに、近藤は家まで送ろうと
土方に目配りをした。遠慮するに、土方は「車まわしてくる」と部屋を出て。
の案内でたどり着いた場所は、かぶき町に近い閑静な場所だった。


「私江戸に来たばかりなんですよ、家も昨日入ったばかりで」


「へえ。今までどこにいたんだ?」


車を降りるに、土方も玄関までと車を降りる。
のんびり話すに興味を示したのか、土方の表情に嬉々としたものが浮かぶ。


「この間までは駿河に。富士樹海で妖がたまっていまして。その前は日本海方面
その前は京都・・・・日本中旅してたの」


「妖退治でか?」


「う・・・・ん。妖っていってもね土方さん、中にはかわいそうな子もいたりするの。
人間や天人を襲う妖だけじゃないんです。
陰陽師は知る限りではほとんど残っていない、だから私が出向いてそんな子の
話も聞いてあげなきゃいけないんだ」



どこか寂しげな表情を浮かべただったが、すぐさまにっこりと笑顔を
土方に向ける。


「しばらく江戸にいることになるので、何かありましたら呼び出してください」


「ああ、助かる。俺達は妖にはまだ未知のところが多いし、さんの助けが必要になるしな」





「は?」


と呼んでください。さんだなんてなんか気恥ずかしくて;だから気軽にと」


ね?と見上げてくるに思わず土方の胸が跳ね上がった。



「お・・おう。じゃあな。江戸の町は人間も危険だ、戸締りしっかりしろよ」

「はーい」



走り去っる真選組の車を見送ると、はガラガラと玄関の戸を開け家へと入っていった。



























「よぉ。遅かったじゃねーかよ」


「うん、ちょっと妖が出てね・・・・ってまたお前かぁ!!高杉ぃぃ!!!






ゴッ









部屋への襖を開けると同時に、鼓膜を振動させた聞き覚えのある声。
顔を上げれば、見慣れた男の顔。は小さく笑うと、浅葱色の狩衣を脱ごうとしたところで
ハッと我に帰った。
たしかこの男とは数ヶ月前京都で別れたきりで、その後日本海・駿河へと赴いたがいつ江戸に入るかなんて
わからないはず。まして家にくるというのも不自然なわけで。
再び目の前の男を見やると、不敵な笑みを称えて酒をすすっている。
そんな姿には思わず手にしていた巾着を男へと思いっきり投げつけ、巾着は男にストレートヒットした。
額を押さえながら、左目を包帯で覆った男−高杉晋助−はを睨みつける。





「ってーなぁ!!犯すぞてめぇ」


「煩い黙れ吊るし上げるよ。何勝手に人ん家上がりこんでんの?何勝手に人ん家の食材あさってんの?
何勝手にお気に入りのお酒あけてんのぉ?つーかこの間は随分な真似してくれちゃったじゃない?
指名手配の高杉晋助さぁん?」


「はっ礼には及ばねえよ」


「違うわ、ボケがぁぁ!」


自信満々な笑みを浮かべる高杉に、はひくりと口端を引き攣らせるとガッと
高杉の襟を思いっきりつかんだ。


「あんたねえ!!あの時、私が必死に通行人F決め込んでたのにさっ、あんたが話を振ってくるから私までテロリスト扱い!!
奉行所に5日も拘留されたんじゃない!!おまっ一般市民がなんの罪もない一般市民がよ!!
おかげで奉行所に雑鬼たちが遊びに来るわ、青龍はおもしろ見物にくるわで5日間一睡もできなかったわー!!」


「まぁ、落ち着けって。どうだ一杯」


「うんv・・・ってそれ私のお酒ぇぇぇ!!勝手に飲むな!!ビンテージものなのよこれ!!
手に入れるのすっごい苦労したんだから!!」


「ハッ、酒なんて腹に入っちまえばみな同じよ」


お前に酒を飲む資格はない!!・・・・・まったく・・・何しに来たの?今度は江戸で派手に暴れるつもり?」


「んあ?が江戸に行くっていうから、追いかけてきただけだよ、
なんたって?俺ァのこれだし?」


膳に寄りかかり、満ち足りた表情でグッv親指を立たせて見せる高杉に
の額にピキッと青筋が浮かぶ。


「何その親指立て、何その満面の笑み!そんな「どうよ俺かっこいいだろ?」的な表情すんな!ていうか
あんたと私何もないじゃん!!ただの知り合いじゃん!!冷酷無比なテロリストに嵌められた
可哀相な被害者じゃん私は!!」


「俺は神前がいいなぁ、式は初夏あたりだな」


「聞いてる?聞いてくれてます?何いろんなもんすっ飛ばして日取り決めてんの?」


「そうかそうか、繋がりが欲しいなら今からヤッて「帰れ。っつーか死んでくれ後生だから」



いっそのことこいつを妖とみなして調伏してやろうかと懐の札へと手を伸ばす。
高杉は満足したように溜息を吐き出すと、スッとを見やった。
嘲笑うでもなくただただ真っ直ぐな視線。
そんな高杉に、はスッと懐の札から手を放し高杉の前へと腰をおろす。




「・・・・・江戸に来た理由はともかく、ココに来た理由は別にあるようね」


「成り行き・・・ってやつだ。馴染みだった奴ん所のガキがどうやらあてられたようだ」









視てやってくれや





















「馴染みだった?」



高杉と並んで、煌びやかなかぶき町の通りを歩く。
時刻は23時を過ぎているというのに、この町の輝きはさらに増している。
ここは夜の町なのだ。
さきほどの高杉の言葉に引っかかりを覚えて問えば、高杉は前を見据えたまま
顔色一つ変えずに答える。


「・・・・ちょいと前にやりあってなぁ。それで完全に決裂よ」


「どっかの天人を釣るのに餌にでも使ったんでしょ?」


「・・・・・・・・・お前実は見てただろ?」


気まずそうに目線だけをこちらに向けてくる高杉に、は一瞬ポカンとする。


「嘘っ大当たり?ちょ・・晋助そんなことばっかしてるとホント孤立するよぉ?」


「はっ望むところだ」


「もぉ・・・・で?状態は見たの?」


また前を向いて若干歩調を速める高杉に、もうこの話題を話しても
はぐらかすか無言の抵抗を受けるだけだろう。
はやれやれと心の中で盛大に溜息を吐き出すと、話題をかえて高杉を見上げる。
高杉の視線は前を向いたまま。だがしっかりと聞いているようだ。


「見てねぇ。話だけだ。それだけでも十分だと思ってんとこ来たんだよ」


高杉は懐から煙管を取り出しながら、昼間路地裏でばったりと遭遇した
昔の仲間との話を思い返した。













まるで獣のような呻き声を上げている、肌の色も異常なほど青い。
薬を投与した痕跡もない・・これは今密かに江戸を脅かしている妖だと
俺は睨んでいるのだが・・・
高杉、お主は術師などに心当たりはないか?





知らねーなァ、だいたい俺の知ったこっちゃねえ。じゃあな




頼んだぞ、高杉




ぁあ?何勝手に頼んでんだよ、ヅラァ





















「っと・・・ここだ」



ふいに高杉が立ち止まり、はきょとんと高杉を見やれば
顎で上を示される。視線を移せば二階建ての家屋の上に大きな看板。



「万事屋銀ちゃん?・・・・・・あ。すごい障気」


「あー、ドス黒いなぁ」


二階を覆いつくすようにも黒い煙が立ち込めており、そこから威圧的な空気が
流れてくる。のんびりと口開くに高杉ものんびりと答えた。





























この連載はある程度のキャラが出てきたら
1話1話のシリーズ連載ぽくなるかも。
とりあえず、真選組と高杉出せた!!

高杉・・・鬼兵隊とはかなり前からの知り合いという設定です。
機会があれば、高杉達との出会いもいつか書けたらいいとあえて希望。

次回は万事屋と桂はんが出ますv

2007年3月8日執筆