サア、呪縛ハ解キ放タレタ
脅威ハ愚カナ戦デ死二耐エタ
邪魔スルモノハ何モナイ
今コソ
再ビコノ国ヲ喰ライ尽クス時
+歪な五芒星+
「青龍く〜ん。とりあえずなんでこうなったか説明してくんない?」
「ぉあ?あーあれだろ?資材置き場に隠れてたら奴らが現れた。俺今風邪気味。咳してバレて追われてる?」
「そうそう・・・・って使い魔が風邪なんかひくかあ!」
「何それ差別じゃね?この冬の寒さは半端ないんだぜ?骨身に堪えるんだよなー」
「寒さ暑さ感じないだろーあんたら神族はよぉっ!」
「あ、バレた?ほれほれもっと早く走れ。追いつかれるぜ?」
「くぉのぅ・・肩にしがみついているだけでいい身分じゃないの」
そう苦々しく吐き捨てると、は右手で素早く五芒星を刻み、背後から迫るそれを肩越し睨みつけた。
「青龍、援護してね?封邪結砕!」
それの咆哮が辺りに木霊する。
「やったか?・・・危ない!」
「しまっ・・・」
「妖?エイリアンならまだしも、今時そんな古臭い代物誰も信じやせんぜィ?」
「まあな。俺だって最初は信じられなかったさ。だが今日とっつあんと一緒に例の封穴を見に行ったんだが・・
なんとも不気味なところでな。妖の一匹や二匹いてもおかしくはないさ」
「ここ最近起こる惨殺事件や神隠し。どれも人間技じゃねえ・・
こいつあ・・本当に妖の仕業かもしれねぇな。」
昼下がり。
真選組の縁側で、先ほど松平と視察に出かけていた近藤の話に沖田と土方はそれぞれ違う反応を見せた。
妖(あやかし)
遥か昔、平安の時代においてこの言葉は人々を恐怖に陥れ、その異形に畏怖の念を露にしていた。
それから数百年の時を経た江戸の時代。
街には宇宙から降り立った天人たちにより開拓され、人々の記憶からそんな言葉はきれいに忘れ去られていた。
このご時世に妖や異形の話をすれば皆、沖田同様に鼻先であしらうことだろう。
今、この国の脅威は天人と攘夷派のテロだけだと。
しかし、江戸は今、深い翳りに覆われようといていたのだ。
近藤は何か確かめるように沖田と土方を見比べると、小さく息をついて上着の内ポケットから一枚のミニディスクを取りだした。
それを土方に渡すと、受け取った土方は予め起動させていたノートパソコンにそれを差し込む。
ファイルを呼び出すディスプレイに目を向けたまま、近藤は静かに口を開いた。
「攘夷戦争の番人って知ってるか?」
「番人?あの戦争に審判でもいてレッドカードでも出していたんですかィ?」
戦争スポーツかよと一人ボケ突っ込みする沖田に苦笑いをし、スッと土方へと視線を走らせれば、彼の横顔は僅かばかり強張っていて。
それに沖田も気づいたようで、自然とその視線が土方に向けられる。
「土方さん知ってるんですかィ?」
「あぁ・・だけど近藤さん。それは御伽噺だろう?」
どこか受け入れたくなさそうな土方の表情に近藤は小さく肩を窄めてみせる。
「俺だってあんな話信じてなかったさ。だが、現実に封穴は存在していたんだぞ?今さっきこの目で見てきたんだからよ」
「話が全然見えねぇでさァ。おい、わかるように話せ土方コノヤロー」
土方と近藤の会話についていけず、沖田は少し口を尖らせて土方を見やった。
人にものを請うにはあまりにも不釣り合いな物言いに、土方は思いっきり眉間に皺を寄せ不快感を露にするが、
いつもとは違う真剣な表情に、怒鳴りつけようと開きかけた口を一旦閉じる。
データの呼び込みが終わったパソコンを操りながら、呟くように口を開いた。
「攘夷戦争の時にな、戦争には参加しなかったが、その激戦区で天人ではない別のものと戦っていたある術師達の話だ」
古来より、日本には多くの妖が存在した。
それは海底に多く存在する海底火山の影響か、はたまた日本という国がまるで四聖獣を従える
麒麟を連想させる形を象っているからだとか、様々な憶測が飛び交うがその真相はいまだに解かれることはなく。
長い年月をかけて作られた時代の中でも、平安の時代には多くの魑魅魍魎が都を跋扈していた。
そしてその異形と対峙する者が現れたのもこの時代から。
彼らは人にはない力と知識を持ち、その術をもって妖を調伏していった。
彼らは尊敬とまた畏れを持ってこう呼ばれていたという。
陰陽師 と。
「陰陽師・・・それって今はいない術師なんじゃないんですかィ?」
土方の言葉に耳を傾けていた沖田は確かめるようにその名を呟くと、思い出したように顔を上げた。
彼の記憶が正しければ、陰陽師という術師は攘夷戦争で死に絶えたと聞いたことがある。
そこで沖田はハッとして近藤と土方を見やった。
「攘夷戦争の番人って陰陽師のことですかィ?」
「あぁ、なんでも日本には妖を封じ込める穴があるらしくてな。
その封穴を守るために近くに社を立て、配属されていた陰陽師が守っていたらしい」
近藤の言葉を土方が引き継ぐ。
「攘夷戦争で人間や天人にことごとく封穴が破壊された。陰陽師はそれを守ろうとしたが、戦争の巻き添えになり、
また破られた封印から溢れ出た妖との戦いで全滅したという話だ。
だが、封穴の話も陰陽師の話も幕府のどの書類にも存在しない。ただの作り話だと思っていたんだがな。
どうやら、幕府はこのことを隠していたらしい」
開かれたデータに目を通していく土方の目がどんどん険しくなっていく。
土方の後ろから沖田と近藤がパソコンを覗きこむ。
そこには日本に点在する封穴の場所がリストアップされていた。
それを陰陽師の足までにも及ばないが、術師により妖の力をなんとか押さえ込んでいたらしい。
だが最近になってその術師達が皆殺しにされ、いくつもの封穴が解き放たれたとある。
天人よりも恐ろしい妖が、江戸をいや日本を飲み込もうとし始めていたのだ。
「陰陽師はもういない。俺達真選組にまかされたというわけか」
「んで、夜の見回りが強化されたってわけですかィ」
「妖は夜動くって話だ。実際、惨殺事件も神隠しも日が落ち始める時刻からが頻発しているからな」
夜でも人通りが多い江戸の街であるが、一つ二つと道を入れば、そこはまるで別世界のように静まり返っている。
そんな通りを土方と沖田は並んで歩く。二人の靴音が妙に響いた。
「なあ。妙に静かじゃないか?」
「そうですねィ。暗殺にはむかねぇや・・ーっ!」
「てめぇ・・この期に及んでまだ俺の首・・・っ!?」
チャキリと鯉口を切る土方の体がピクリと固まった。
沖田も感じ取ったようで、鋭い視線であたりを見渡している。そっと右手が刀の柄へと伸び。
「なんだこの感じ」
「さすが妖ってかィ」
二人は感じ取っった。
おそらく常人には感じ取れないだろう、常に死と隣合わせな彼らだからこそ感じ取れる辺りを覆う空気。
生温く重苦しい、まるで圧し掛かってくるような空気に土方と沖田はどちらからとなく背中合わせになり、いつでも抜刀できる体制をとった。
何かが来る。人間や天人ではない異質な空気を持った何かが。
途端、
おおおおん
近くで獣のような咆哮が上がった。
今まで聞いたことがないような不気味な咆哮に、腹の底から粟立つ感触が全身を支配する。
咆哮が止まった次の瞬間、さらに裏道の方で何かが破壊する音ともに木屑や煙が上がった。
「総悟!」
「おう」
土方と沖田は爆発が起きた方へと走り出した。
「妖の姿拝むぞぉ」
「やっべ、デジカメ持ってこなかったぜィ」
辺りを取り巻く空気はとても重苦しいのに、土方と沖田はどこか楽しげに口角を上げた。
そこの曲がり角を曲がれば・・妖とご対面だ。
江戸を脅かし始めているその姿、拝んでやろうじゃないか。
「わーっちょっ・・どいてぇー!」
「んあ?・・っあぶねっ」
細い路地から慌てた声ともに小さな影が土方へと突進してきた。
突然のことに驚くも、土方は持ち前の反射神経の良さで、素早く飛び込んできたものを抱き止める。
どうやら人間のようだ。妖におそわれていたのだろうか。
「大丈夫か?!」
そう声をかければ、ふわりと抱き止めた人が顔をあげる。
少女だった。年は総悟とそう変わらないであろう少女。
あどけない表情に琥珀色の可愛らしい瞳が真っ直ぐに土方を捉える。
その琥珀の瞳に土方は思わず息を飲んだ。
沖田もその少女を少し目を丸くして見つめる。
かわいい!
なんかめちゃくちゃかわいいんだけどぉ!
土方の腕に抱き止められた少女は、まさかこんなところに人がいたとは思いもせず、
ただただ驚くだけだったが、状況を思い出したのかハッとして土方の袖をつかんだ。
「ごっごめんなさい!んで、ありがとうございます!でもって回れ右の全速力ぅぅ!」
「は?・・のわっ!」
「おゥ?」
少女は土方の手を掴み、もう反対の手で沖田の手を掴むと、土方と沖田が来た方へと走りだした。
少女につられて二人も走りだす。
次の瞬間、背後でドォンッと大きい音がして二人は肩越しに振り返った。
そこには五メートルほどの狒狒のような獣が彼らを捉えていた。
カチリとそれと目が合うと、狒狒はニヤリと牙を向き出し咆哮をあげてこちらへと突進してくる。
「なんだぁ!!あれぇぇぇ!」
「すげーやゴリラ星の王女よりでけーぜィ」
「巻き込んでごめんー!死にたくなかったら死ぬ気で走ってぇぇ!」
「「ムチャクチャだなおい」」」
少女の言葉に土方と沖田の声がはもった。
ふと土方は走りながら少女を見やる。
(こいつ・・今巻き込んでって言ったか?)
と、走る少女の首からするりと青白いものが出てきた。
それは一瞬蛇のように見えたが、何度か文献で見たことのある・・だが現実には存在しないその姿に土方は目を見開いた。
だが、土方はさらに驚愕の色を濃くすることになる。
「〜。この先に河原があるぜ、そこで仕留めろ」
「うん」
「なんだそれぇぇ!っつーか今喋ったか?!」
「あ?」
少女の肩に乗っている物体が半眼で土方を見据えた。
沖田も少し驚いたような声をあげる。
「すげー、それ龍じゃないですかィ?
・・・・・・・・・・・・・・・・えらいちっせーなおい」
「ちっせぇ言うなあああ!おいっ!!
なんだこの人間!どっから沸いてきやがった!」
「さっき、巻き込んじゃった;河原で仕留めるから青龍はこの二人をお願いっ!」
「ちっ、しゃあねーなあ。おい人間。助けてやるから河原に出たら俺から離れるなよ?」
「っ!んだと、てめぇっ」
「河原に出るよ!白虎!結界を!」
−御意−
空気を振動させて、低い声が少女に答えた。だが姿は見えない。
クッと肩越しに振り返れば、狒狒はすぐそこまで彼らに迫っていた。
走る勢いはそのままに、土手を転がり落ちると少女はサッと体制を整えて狒狒を見据える。
土方と沖田もザッ立ち上がり、刀に手をかけようとするが
グイッ
何かに襟首を掴まれ振り返れば、いつの間に現れたのだろうか?長身の青年が二人の襟首を掴んでいた。
水色の短髪の髪に同じ水色の瞳が二人を睨みつける。
「動くんじゃねえぞ人間。の邪魔になるからな」
「なっ・・てめぇどこから・・って放せ!!あの子一人じゃ・・」
「土方さんっあれ!!」
「っ・・・・なっ!!」
沖田の声に狒狒の方へと視線を走らすと同時に、土方の目が見開かれた。
「我がの血において命ずる、土に宿りし精霊よ我が力になり給え」
狒狒と対峙しながら、両手で印を結び何かを呟く少女。
少女の目が見開かれると同時に、辺りに風が起こった。いやただ起きたのではない
少女を取り巻くように、守るように風が起きたのだ。
右手が狒狒へと差し出される。
「封邪結砕!」
「・・・・・・な・・・んだ・・・・」
静まり返った河原に、土方の小さな呟きがよく響いた。
隣の沖田も、何が起こったのかわからないような表情をしている。
パンパンと両手を叩くと、少女は土方と沖田へと歩み寄った。
にこりと微笑むその笑顔に思わず釘付けになってしまう。
「お怪我はありませんでしたか?」
「お前・・・・いったい・・・・」
「てめぇ!!に向かってお前とはなんだぁ!!!」
少女の肩に乗っている、青白い小さな龍がくわっと目を見開いて
土方を睨みつけた。
先ほどは走っているときに見た龍。だがこうして近くで見ると
本当に龍そのものだった。この少女は一体何者なのか。
珍しく頭の整理が追いつかない土方に龍がさらに口を開く。
「助けてもらったらまずは「ありがとうございました」だろう人間!!
でもって、何かお礼をと言って、馳走腹いっぱい食わせるもんだろうーがぁ!!
これだから最近の若いもんわよぉっ
ったく陰陽師に助けられたって名誉あるもんを呆然と立ち尽くしやがって。
おい!!こんな奴らほっといてサッサと家帰るぞ!」
「青龍落ち着いてね。障気にあてられているかもしれないから浄化しないと」
「あ?大丈夫そうじゃね?妖見て刀抜こうとしてたんだ、よほど図太い神経してんだろーよ」
「いや;そーゆーことにもいかないでしょ?って刀?」
「そ、刀。・・・・・・・・・なんだお前ら廃刀令知らねえのかよ」
顔を見合わせた少女と龍が、訝しげに土方と沖田を見やった。
だが土方はそれに答えることなく、今先ほどこの龍の口から零れた言葉に
すっかり固まってしまっていた。
「あんた・・まさか・・あれですかィ?」
「ん?」
「なんだ?茶髪の人間」
「お前・・・陰陽師?!」
「お前とはなんだぁぁぁぁ!!!」
龍の怒鳴り声が河原いっぱいい響いた。
はい、ついに始めちゃいました;銀魂連載第二弾。
本当はプリンセス〜が終わったら書き始めるつもりだったんだけど、
ちょいと季節にそって書きたい部分があって、
同時進行にさせてもらいました;
陰陽師ヒロイン大好きなんでさァv
こちらは最終的には銀さんな連載にしたいと思ってますv
どうぞよろしくですv
2007年3月3日執筆