早く・・父上にお知らせしなければ・・・


























+Princess more than Princess 5+












「う・・・ここは」


断続的に走る腹部の鈍い痛みに、は顔を顰めながら目を覚ました。
ゆっくりと辺りを見渡せば、そこは小ざっぱりとした見知らぬ和室。
焦点が定まらぬま室内を眺めているも、徐々にさきほどまで自分が置かれていた状況を思い出して、
咄嗟に身を起こそうとした。が、


「はうっ・・いたたたた」


ピキッと腹部が引き攣り一瞬で冷や汗が吹き出る。
しかしそれよりもは今自分がいるこの場所のことを気にした。
気を失う前までがいた場所は港。
そこでカザギ達に襲撃されその場を凌ぐも、再び現れた用心棒に気絶させられた。
殺され海面を漂うか仮に生かされたとしても、どこかに監禁されるかでこの対応はあまりにも
不釣合いだ。
ふと腹部を見れば手当てもされていた。
ますます頭が混乱してきた頃、静かに襖が開き、ハッとして顔を上げる。



「おー目ぇ覚めたあー?」


「ぎ・・んちゃん?」


どうこの場を切り抜けるか、素早く考えを巡らせ入ってくる人物を睨みつけると同時に降り注いだ声に、
は目を丸くした。
眩しいほどの銀髪にやるきのなさそう表情。
それは先日出会った万事屋の坂田銀時だった。
呆気にとられているに気づいてないのか、銀時はどっかりと布団の横に胡座をかくと、身を乗り出しての腹の傷を見やる。


「応急処置はしてあったから、銀さんでも治療できたわ」


あ。銀さんちょーっとワケアリで応急処置とかうまいのよ。
そうやる気のない表情そのままに口を開く銀時にはハッとして傷を見やる。






私・・応急処置なんてしてない・・




「なんで銀ちゃんが・・?それにここは」


どこ?そう言葉を続けようとして言葉を飲み込んだ。
銀時は僅かに目を鋭くしてを睨んでいたからだ。



「なんで俺がいるかだぁ?ここは銀さんの家だからに決まってんだろ」


「銀ちゃんの?・・でもなんで私が銀ちゃんの家に・・」


「おいおいおい、寝ぼけてるんですかちゃーん。」


呆れたと言わんばかりの盛大な溜め息にビクンとの体が強張る。


「ガキ共二人がいねー平和な昼下がりにさ、パフェ天国なドリームトラベルをしてたのよ銀さんは。
それをオメー、人んちのチャイムで完璧なまでの三三七拍子を連打しといて覚えてねぇ?」


銀さん思わず「そーれ」って合いの手入れちゃったじゃん!!
そう憤慨する銀時にますますの首は傾くばかりだ。



「ちょっちょっと待ってよ!
私は港までのしか記憶がないんだ・・・
そう・・カザギが・・・・・いやそのっ・・チンピラに絡まれて怪我して・・
それから・・そうだ・・派手な着物を着た左目を包帯で覆った浪人に・・」


「派手な着物の左目包帯だあ?」


「う・・うん。その男にたしか(少し眠ってろ)って・・気づいたらここに・・」



「あんのバカ杉・・」


「え?」


「いやこっちの話。で、一体何があったのよ」


まっすぐに見つめられて、は思わず肩を揺らした。
さきほどねやる気のなさそうな表情ではない、何もかも見透かしそうなまっすぐな表情には内心焦った。
巻き込むわけにはいかない。無関係な人間を巻き込んでは・・。



「ん・・銀ちゃん手当てしてくれてありがとう。だけどこれはアクエリアの・・・
極秘なことなんだ話せない。ごめん」



姫に報告しなきゃいけないからと
フラフラと立ち上がり、横に置いてあったコートに手を伸ばす。
それを静かに眺めていた銀時が小さく溜め息を吐いた。


「テレビ見てみな」


コートを羽織り刀を整えるに顎で隣室を示してみせる。
きょとんと首を傾げてフラフラと覚束ない足取りで示された隣室と向かえば、
つけっぱなしだったのだろうテレビから何か騒々しいニュースが報道されていた。




「姫の側近がアクエリアを滅ぼそうとしているテロリストの一員だとわかり、
アクエリア軍隊と警護をまかされていた真選組は非常事態勧告を敷き、
姫の護衛を強化するとともに、逃亡した側近、()を指名手配しています」




「な・・にこれ・・」



何・・何なのこのニュース。
このレポーターは何を言っているの?


慌ただしい動きで警備を強化する軍と真選組の映像が流れる。
姫が泊まっているとされている離れの前には厳しい顔をした源慈之介と近藤。
淡々と部下に命令を下す土方の映像も流れる。


「側近のは港で不振な者達と密談をしていた。私が話かけるとあの女は斬りかかってきたのだ」


胸を張ったカザギがレポーターにインタビューされている。






不振な奴らとクーデターを企てているのは貴様だろうカザギ。







「テロリストの足取りはまだ依然不明ですが、幕府は緊急配備で地方へと出る関所を完全閉鎖し・・」



「私がテロリストだと・・・」






CMへと変わるテレビ画像などもはや目に入ってなかった。





謀られたっ!




ぎゅっと握られた拳に青筋が浮かぶ。
ギッと食いしばられた口元から一筋の血が流れた。



どうする・・
なんとしてでもあの兵器を止めなければ





呆然と立ちつくすを和室から眺めていた銀時は、ゆっくりとした足取りで歩み寄りテレビのスイッチを消すと、
ドサッとソファへともたれかかった。



「今さ、家賃はおろか食費まで危ういんだよね、うち」


「?なんのこと」


のんびりと呟かれた銀時の言葉に緩慢な動きで銀時へと視線を動かす。



「万事屋へのご依頼はございませんか?お嬢さん」






そこには不敵な笑みを浮かべる銀時がいた。






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三三七拍子のチャイムを鳴らしたのは高杉君。
2007年7月24日執筆