ドリーム小説
「ほう、特命亀山の今日の昼食は、相も変わらずの激安ミックスフライランチか」
「うっせぇ!限定食ごときでいきがってんじゃねえよ、ぶわぁか!」
「あ〜ら。それは私に対する、侮辱の言葉として受け取っていいのかしら?お二人さん?」
「ぁあ?!・・・・・!!!;;」
+食堂の女王+
誰もが安らぎの溜息をつく、昼の庁内食堂。
所構わず起こる先輩二人の口喧嘩ももはや止める気力などない芹沢が、
二人を横目に幸せいっぱいでカレーライスを一口、口へと運んだその時だった。
厨房の奥より響いてきた声に、睨み合っていた伊丹と亀山はびくりと肩を揺らし青ざめ、
芹沢はのほーんと顔をあげる。
そこには包丁を片手に腕を組みにっこりとふたりを見つめている、いや、爽やかな笑みだが
殺気をめいいっぱい背負い込んだ女性が立っていた。
ゆっくりとした足取りで、テーブル席へと出てきて二人の前に立ちはだかる。
立ちはだかるといっても、その女性は小柄で長身の伊丹と亀山に比べると、到底立ちはだかるには無理があるのだが、、
伊丹と亀山は顔面蒼白にしている様はまさにそのたとえがぴったりとはまった。
「あ、さん!カレー美味いっすよ!!」
「わvありがとう〜芹沢さんv」
芹沢がにっかりとスプーンを持ち上げてみれば、と呼ばれた女性も
にっこりと芹沢に笑みを向けた。
「ん?・・あれ?、今日出勤日じゃねえだろ?」
「え?ああ、徳富のおばちゃんがぎっくり腰なのよ〜。で、しばーらく私が出ることになったの」
「あぁ・・そういやいつもの威勢のいい声が聞こえなかったな」
青ざめていた亀山はふと首を傾げて口を開けば、は少しくたびれたように笑ってみせた。
の言葉に伊丹も「そういえば」と頷く。
「まっしょうがない」と声をあげ、勢い良く包丁を手にしている腕を回して見せると、
再び殺気がかった笑みを亀山と伊丹に向けてみせた。
「で?私が丹精込めた食事を侮辱するのはどこのド阿呆かいな?」
「「・・・・・;;」」
大の男が小柄な女性の笑みにたじたじな姿は傍から見ればかなり滑稽で、
笑いを誘う光景であろう。
この騒ぎを目にした他の職員達は、クスクスと笑いながら彼らを傍観していた。
互いに口答えをするようににも歯向かえばいいものを、それができないのは
彼女が食堂の女王と呼ばれているわけで。
といえば、警視庁ではちょっとした有名人である。
食堂の料理係。警察官ではない雇われの料理係だが、はただの料理係りではなかった。
彼女が作る料理はもちろん絶品で、お袋の故郷の味を思い出す者や、相談を受け体調に合わせて作ったりと
食堂に訪れる一人一人に気を配っている。
また、明るい性格も彼女の人気を押しているともいえよう。
食堂には彼女に会いたいがために訪れる者も少なくない。
亀山や伊丹、そして芹沢もその中の一人とつけ加えておこう。
は小さく溜息とともに二人に笑みを向けると、ふとテーブルに視線を落とした。
「ぁあっ!亀山さんまぁたミックスフライなの?!だめだよー油ものばっか摂ってたら!!」
「う;だってよ〜、海老フライがあるのこの定食だけなんだぜ?」
「はっダメ亀が」
テーブルには亀山がとっていたミックスフライ定食。
の鋭い声に肩を窄め情けない声に、隣の伊丹は小馬鹿にしたような表情で
亀山を見据えた。
それと同時にちらりとの視線が、芹沢の隣を捉える。
「って!伊丹さんも!牛乳飲んでいってるでしょ!」
「はぁ?飲めるかあんなもん!!」
さも嫌そうに顔を顰めて顔を歪める伊丹に、はむうっと頬を膨らませた。
「もうっカルシウム不足!だからそんなに短気なのよ」
「う;うっせ・・」
「へっ莫迦め」
からの注意に気まずそうにするも、二人はどことなく嬉しそうだった。
反省の色が見えない二人に、はますます頬を膨らませて二人を睨み上げるが、
その仕草はかわいいだけしか見えず、二人はさらに頬を染めるだけ。
「むう〜じゃあ、せめてちゃん特製の青汁飲んで行けv」
「っ・・・・余計飲むかー!!」
「おいおい、伊丹ぃ〜何ガキみたいに駄々こねてんだよ〜v」
「あれ?亀山さんも飲むのよ?」
「まじかよ!」
「ま〜じですv」
頑として牛乳から目を背ける伊丹に、は厨房からパックの青汁を二つ
持ってくるとそれを伊丹に突きつける、さらに喚く伊丹に嘲笑する亀山。
そんな亀山に涼しい顔でもう一つのパックの青汁を突きつければ、
サーっと亀山の顔色が青汁色に染まった。
さらに目に前に押し付けてくるに二人がとった行動は
「あっこらあ!!逃げるな!!芹沢さん二人確保ぉ!!」
「了解v」
無言で踵を返す二人にの鋭い声が食堂内に響き渡った。
それを合図に芹沢が嬉々とした表情で、こそこそと食堂から逃げ去ろうとする
大男を後ろから押さえつける。
「っつ!離せ芹沢、お前先輩押さえつけていいと思ってんのかこら!」
「そうだぞ!!ちったあ加勢しろ!」
「えー?ここの管轄はさんだしーvねーv」
「ねーv」
「ねーv・・・じゃねえよ!何二人ではもってんだよ!!」
無様に押さえつけられる大男二人の前に、ゆっくりとが腕を組む。
その至極嬉しそうな笑みに、伊丹と亀山からサーッとさらに血の気が引いた。
「はいはーい!無駄口たたかなーい。青汁投入!」
「「ぎゃー!!!」」
昼食の騒動も、深夜へと時計の針が進むにつれ、靄がかった記憶となり。
伊丹は一人、捜査一課のデスクへと向かっていた。
後輩の芹沢や同僚の三浦も帰宅している。課内に残っているのは伊丹だけで
広々とした室内に己の息づかいだけが妙に響き渡っていた。
「・・・・腹減った・・・」
デスクに積み上げられた資料は、何一つ糸口が見つからない。
眠気と空腹が脳の働きを鈍くさせているのは間違いないだろう。
コンビニへでも夜食を買いに行くか、しかし疲れきった体は外へ出かけることを
頑なに拒む。
「そういや、食堂横に自販機があったな・・・」
そうぼんやりと食堂横の自販機を脳裏に思い浮かべた。
あそこには飲み物やカップ麺などの自販機が数台置かれている。
少しは腹のたしにはなるだろうと、伊丹は財布を手にし重たい足取りで一課を後にした。
薄暗い廊下は妙に静かで、不気味にさえ感じる。
食堂も電気は落とされ、ドアも施錠されているだろうとエレベーターから降りた伊丹は
怪訝そうに首を傾げた。
食堂には煌々と電気がついていた。
不思議に思い、食堂へと入るガラスドアを押し開けながら入る。厨房の奥で誰かがまだ
片付けなどをしているのだろうか?人の気配を感じで、カウンター越しに厨房の奥を覗き込んだ。
「じゃねえか・・・こんな遅くまで何やってんだよ」
「ほえ?」
覗き込んだ視線の先には、水場で洗い物をしているの姿。
突然声を掛けられ驚いたのだろう、一瞬ビクッと肩を揺らすと伊丹へと顔を上げた。
「こんな遅くまで片付けか・・青汁ーvv!!・・・んな!」
パアッと瞳を輝かした瞬間、はバッとカウンターへより顔を覗かしている伊丹へと突っ込んだ。
慌てて、顔を引っ込めると数歩後ずさりをする伊丹に、ニコニコとカウンターの中から
手招きをする。
「青汁飲みに来たのね〜えらいわね〜vv」
「っつ、飲むか!!!」
昼間の騒動が駆け巡り、声を荒げる。
「うそうそ」と笑うを軽く睨むと、深い溜息を吐きながら食堂を出た。
不思議そうな顔をしながらも後をついてくる。
「どうしたの?」
「んあ?腹減ったからよ、自販機で何か買おうかと思ってな。そしたらここが電気ついてたからよ」
ジャラジャラと小銭を取り出す伊丹を「ふーん」と、眺めていただったが、
思い出したように伊丹の顔を覗きこんだ。眉間に皺を寄せて見据えれば、
にっこりと微笑んでみせる。
「?・・なんだよ」
「なんか作ってあげるよv」
「は?」
「お腹、空いているんでしょ?」
「でも、片付けしてただろ」
「いいからっ。ほら来て!」
袖を引っ張られ、口を開く前に食堂へと引き戻されると、強引にカウンター近くのテーブル席に
座らされた。突然のできごとに言葉が出てこない伊丹に、はいたずらっぽくウインクをする。
「ちょーっと待っててねーvv」
カウンター越しにがリズム良くまな板を叩いているのをぼんやりと眺めながら、
ふと疑問に思ったことを問いかける。
「忙しかったのか?」
食堂は夕方までだ。今は日付が変わるかの時間。
ジュワッとフライパンにまな板で切られていたものが勢い良く放り込まれる。
フライ返しで手早く炒めながら、は返事をした。
「いーんや。新作を作っていたのー」
「新作?」
「そ、新作v」
かちゃりと食器の触れ合う音がして、お盆を手にしたが厨房から出てきた。
ことりと目の前にお盆に、伊丹は思わず「おぉ」と感嘆の声を漏らす。
穀物が入った飯に汁物、お新香にんわりと鼻をくすぐる韮を使ったニラタマゴ。
「簡単なもんでごめんねー」とお茶を置きながら苦笑いするに首を振ってみせると、
そっと箸を手にした。
「雑穀米を使った定食出そうと思ってさ、ね、どう?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・おーい・・・・」
意見を求めるように伊丹の顔を覗きこむが、よほど腹を空かせていたのだろう、
の言葉などに耳を貸さずにもくもくと箸を進めている姿に、は小さく笑って、
緑茶をすすった。
「ま、野菜不足な伊丹さんにはぴったしな食事ねv」
「んお?何か言ったか?」
「ううんー。ご飯おかわりあるからね」
「おぉ」
食事後、緑茶で一服しながらしばしの談笑の後、伊丹はさっきとは晴れ晴れとした表情で
仕事に取り掛かった。
そして翌日の昼食時。
今日も相変わらずな口喧嘩が食堂内に響き渡る。
「ほお、また特亀はフライ定食か。成長しねえなお前」
「うっせえよ!!いちいち人の食うもんにけちつけんなよ!お前だって代わり映えしない限定・・・ってあれ?」
ご丁寧に亀山がいる席に来て嫌味を言う伊丹に、亀山も歯をむき出してして応戦する。
が、伊丹の持っているお盆にいつもとは違う定食が乗っていることに、亀山は続けようとした言葉を飲み込んだ。
不思議そうに伊丹のお盆を指差し、首を傾げている様にハッと鼻で笑い、悠々と踵返す。
「じゃあな、代わり映えしない亀山さんよ」
「おっちょっ!!なあそれ何だよ〜今まで見たことねえぞ〜!」
美味そう!と伊丹のお盆を覗き込む亀山に、さも迷惑そうにシッシと犬を追い払うような仕草をする。
「一口食わしてくれ!」
「ぁあ?ふざけんな」
「いいじゃねえかよ!」
「どけ!」
「そこー!!食堂で騒がなーい!!」
「「はい、すいません;」」
今日も賑やかな食堂に、の威勢の良い声が響き渡たった。
「あ、伊丹さんv青汁〜v」
「!!」
なんだかお腹すいたー、にらたま食べたイーとおもいながら書いてたら
こんな阿呆な文ができちゃいました。ドロン!
2005年8月1日執筆