「あっちゃん!俺が運ぶから置いときなよ」
「おっ嬢、俺がやっとくから休んでろや」
私は何もできない、ただのマスコットなの?
そうだったら私はここにいる意味ないよぉ
+マスコットの憂鬱+
は警視庁刑事部の刑事である。
もっというと、かの有名な捜一トリオの後輩。
警察官採用規定の最低身長ギリギリラインの小ささに、くるっとしたまある瞳、
黒く、長い髪を編み込みまとめ、すっきりとした印象を受ける。
しかし、ほんわかした性格にほにゃと笑う仕草はおよそ26歳には見えない童顔で、
トリオの後ろをちょこちょことついて行く様はまさに親鳥に必死についていく雛鳥のようで、
またそれが人気を呼んでいた。
捜査一課内に限らず、刑事部・生活安全部また噂ではあの官房室長の小野田までを大変可愛がり。
特に捜一トリオと呼ばれている、伊丹・三浦・芹沢の三人は妹のように可愛がり、彼女を狙う男共から堅くガードする毎日。
彼等の要注意人物のリストには、小野田官房室長を筆頭に刑事部長とそのおつきから、亀山薫まで細かく書き出されている。
つまりは彼女に想いを寄せる男が多いというわけだが、
今、は頭を抱えているのはもっと別のことで、それは日を追うごとに彼女を苦しめていた。
「君」
自分のデスクにつき、今追っている事件整理をしていたの後ろで、低い落ち着き払った声が降ってきた。
聞き慣れたその声にはペンを置くと、は上司へとしっかりと振り返る。
そこには刑事部長の内村が、にっかりと微笑みながら立っていた。
その意味ありげな笑みに、はきょとんと首を傾げ、の隣デスクの芹沢、
その向かいデスクの伊丹と三浦は、探るように刑事部長を睨みつける。
刑事部長がわざわざここに来る理由はただひとつ!
「君、ちょっと肩を揉んでくれるかね、どうも調子が芳しくないんだ。」
そう顔を顰めながら首を動かし、肩を叩いている仕草にはにっこりと立ち上がり、
自分の席に座らせると、その後へ周り腕捲りをした。
「部長すっごいこってますからねv」
「ははっ。いやしかし、君は上手いからねぇv」
「ありがとうございますv」
(おいおいおいおい!和むな!!つか自分の部屋に戻れ狸じじい!)
三人の睨みを快感そうに目を細め、ふんぞり返る内村。
目が大いに語っている。
(ふん、上司の特権だ。羨ましいだろう)
「んー。やっぱり君は最高のマッサージ師だ。また頼むよ」
「・・・はいv」
一瞬の顔に陰りが差したが、すぐに内村ににっこりと笑顔を向けた。
悠々と歩きながら一課を後にする内村を見送ると、小さく溜息をついてデスクにつく。
そんなの様子に、芹沢は首を傾げての顔を覗き込んだ。
「ちゃんどうかした?」
「え?・・・あ・・ううんっなんでもないです先輩」
「あの狸の肩揉んで疲れたんだろ!の肩がこっちまうってなぁ 」
「へへv」
舌打ち気味に毒づく伊丹に小さく笑うと、再び捜査資料に視線を落とした。
ほのかに空腹を覚えた頃。時計が昼休みの時間を告げ、四人は連れ立って食堂へと向かった。
最初はまだ事件の資料整理が終わってないからと断っただが、強引に伊丹と三浦に席を
立たされ連れ出されたのである。
彼らからすれば、「かわいい後輩を一人置いて行けるか!」なのだ。
「先輩〜。資料提出今日中なんですよ・・?」
「ぁあ?俺が手伝ってやるよ。腹が減っては戦はできねえぞ?」
「そうそう。嬢は小食すぎるからしーっかり食べないとバテルぞ」
「はあ;」
がしがしと強めに頭をかき撫でられ、思わずきゅっと一瞬目を瞑り伊丹を見上げれば、
にやりと笑い返され。
食堂に着き、四人がけのテーブルを確保するとはお茶を汲みに立ち上がった。
が、それを芹沢がの肩を抑えて椅子へと押し戻す。
「いいよ、俺がやるからちゃんは座ってなって」
「え・・でもっ」
先輩にお茶汲みをさせるなどとんでもないと立ち上がるが、すでに芹沢は食堂の入り口近くの
お茶のコーナーへと向かっていた。
伊丹と三浦は食券を買いに席を立っているので、自分はちゃんと席にいなければならない。
ぺたんと椅子に座ると同時に、今まで心の奥で溜まっていたものがどんどん溢れてくるようで、
は泣きたくなって深く俯いた。
「おっちゃん!!どうしったのー?」
「!!・・・あっ亀山先輩」
頭上から明るい声が降ってきて、は弾かれるように顔を上げた。
そこには特命の亀山と杉下がを見下ろしていた。
立ち上がってぺこりとお辞儀をするに杉下は小さく笑う。
「お一人ですか?」
「いいえ。先輩達と一緒です」
「も可哀想になあ・・あんなムサ苦しい奴らと食事だなんて」
「暑苦しい奴に言われたくねえな。ト・ク・ガ・メ」
「うおっ!何だよてめえ!!真後ろにいんなよ!!」
「生憎とそこは俺の席なんでな。退け」
しっしっと亀山を追い払うと、伊丹は両手に持っていたトレーの一つをの前に置き、
の真向かいに腰をおろし、もう一つのトレーを置いた。
三浦と芹沢も戻ってきて食事を始める。が、伊丹は苦々しく隣接しているテーブルを睨みつけた。
「・・・で、なんで隣のテーブルなんだよ亀!!」
「あ?いいだろっどこに座ったって!!。ね?右京さん?v」
「えぇ」
いそいそと隣のテーブルを伊丹達がいるテーブルにくっつけてくる亀山に、
さらに嫌悪感をむき出しにする伊丹。
「しかも何、ちゃっかりの横に落ち着いてんだよ!!離れろ!!
にお前のバカが移る!」
「ぁあ!どこ座ったっていいだろーが!なあ?ちゃんv」
「あはは・・」
伊丹の睨みを鼻で笑うと亀山はにっかりとに微笑んだ。
三浦と芹沢は呆れたように溜息をつくと、食事にとりかかる。
伊丹も苦々しく亀山を見据えながら箸を手にした。
「あっちゃん!俺が運ぶから置いときなよ」
「おっ嬢、俺がやっとくから休んでろや」
時計の針はすでに10時を回っていた。
しかし、捜査一課には明るく電気が灯り、伊丹と三浦そして芹沢とは忙しく
ファイルを睨みつけ、時折ホワイトボードに細かく書き出していく。
全員の顔にはありありと疲労の色が見えていたが、誰一人として手を止める者はいなかった。
ふとファイルの山を見やったは、ここでは邪魔になると部屋の隅のテーブルへ運ぼうと
手を伸ばした時だった。
パソコンと格闘していた芹沢がおもむろに顔をあげて、に声をかけたのだ。
「それ意外と重いからさ」とやや疲れた笑顔を見せる芹沢に申し訳なく思いながらも、
おとなしく従う。実際このファイルの山は相当の量だ。
それならコーヒーでもと踵を返すが、それは三浦の声によって遮られる。
「え?とんでもないですよー!三浦さんこそ休んでてくださいよ!」
「いいからいいからv嬢ちゃんは座ってなって」
無理やりを座らせると、三浦は少し濃いめのコーヒーをカップに注ぐ。
ズキンと心が軋んだ様に痛くなり、はデスクに向かうと小さく俯いた。
ホワイトボードに捜査過程を書き込んでいた伊丹はしばらくボードを睨みつけていたが、
深く溜息を吐き出すと、カタンとペンを置きデスクへと踵を返した。
「っち、今回も難解な事件だなおい。お、!お前もう帰れ、な?」
俯いているを気使ってものであろう、はハッと顔を上げるとブンブンと首を振ってみせる。
「いっいえ!まだ自分は仕事が残ってますから!!」
そう慌てて、デスクの上のファイルを開く。
だが、次の瞬間上から伸びてきた手にファイルは奪われてしまった。
ファイルを追うように視線を上げれば、その手は伊丹のもので、ファイルで軽く肩を叩きながら
もう片方の手で強めにの頭を撫でつける。
「いいって!!お前、ここんとこずっと突き詰めててたろ?今日は帰んなって!」
の中で何かがはまり込んだ気がした。
「邪魔・・・ですか?」
「は?」
深く項垂れて紡いだ言葉はとても小さいもので、くぐもった声ははっきりと伊丹に届かない。
「私は捜査一課の・・・先輩達のお荷物ですか?」
「!?おっおい・・・何言って・・・」
「私っ何もできないならここにいる意味ないです!!」
怪訝そうにの顔を覗きこむ伊丹に、は大声で叫んでいた。
目を見開き固まる伊丹に、三浦と芹沢も驚いたように立ち上がる。
はハッとしたように顔を上げた。すっかり固まってしまっている伊丹の表情がとても辛くて
はこみ上げてくるものを必死に押さえ込みながら、頭を下げる。
「すっすいません!!!失礼します!!」
「おっ・・・おい!!」
顔を俯かせながら背を向けるに伊丹は声を掛けることしかできなかった。
伊丹が我に返り足を踏み出す頃には、は捜査一課を飛び出していた。
街に溢れるネオンは今のにはとても虚しいものだった。
捜査一課を飛び出して、どこをどう走ったのかは分からない。
ただ、こみ上げてくるものを抑えきれずに、ボロボロと頬をつたっていたのだけは覚えていた。
ふと、は足を止めた。
本庁からそう離れていない街中であるとわかると、ゆっくりと歩き出す。
(私・・いつもいつも皆にかわいいかわいいだけで・・
本当は私何もできないお荷物なのかな・・・)
そう思うとまた新たに熱いものがこみ上げてきそうになり、は泣くまいと必死にすすり上げた。
「・・・勝手に飛び出してきちゃった・・・先輩怒ってるよね」
さきほどの驚きに目を見開いた伊丹の表情が頭から離れない。
「謝らなきゃ・・・・」
そう踵を返そうとした時だった。
「お姉ちゃん、ひっとり〜?」
「どーしたの?浮かない顔して?彼氏とケンカしたの?」
「だったら、俺達と遊ぼうよ〜」
チンピラ風の男が三人、を取り囲むようにして声を掛けてきた。
服装はかなり派手だが、顔からしてまだ20歳未満であろう。
しかし、小柄のサクヤから見れば、かなり背が高い。そんな男三人に囲まれて、は一瞬にして
表情を強張らせる。
男はニヤニヤと笑いながら、の肩に腕を回す。その腕を振り解くとキッと男達を睨みつけた。
「離して」
強く睨みつけても男達はヒューと口笛を鳴らしてさらにニヤついてくる。
「怒った顔もかっわいいーねーvv」
「ねっカラオケとか行こうよ」
さらに肩を掴んでくる手を叩き落とすと、さらに声色を落とし相手を睨みつけた。
の顔にははっきりと警察官としての表情が浮き上がっている。
「離しなさい。私は警察官です。貴方達、未成年ね?」
さっと警察手帳を見せ、三人を見据える。
「こんな時間にこんなところをうろついて、何かあったらどうするの?
交番が近くにあるからそこで・・」
「へーvお姉さん警察の人なんだー」
「婦警さんっていいよねー」
「じゃっ遊びに行こう」
警察手帳を出されても、男達は表情を変えることなくさらにへと迫ってきた。
ガシッと腕をつかみ上げられ、思わずその痛みに顔を歪める。
「離しなさい!」
「どこがいい?」
「あれだろーフルコースだろーv」
「決定だな」
「・・っやっ」
男達のニヤニヤした笑い方に思わずは背筋が寒くなった。
自分より背の高い男三人に囲まれて、思うように動けない。
無理やり引きづられ、は恐怖に目を閉じた。
「よおし、じゃあフルコースで補導してやる」
「決定だな」
「っすね」
掴まれている痛みが和らぐとともに、聞き慣れた声が響いてはハッと目を開ひ顔を上げた。
三人の男達を囲むように、伊丹がの腕を掴んでいる男の肩に腕を回し、三浦と芹沢は腕を組んで
立っていた。
「あ・・・先輩・・」
ちらりとを見据えると、伊丹はバンバンと男の肩を叩く。
「よお、俺よお、今さいっこーに不機嫌なんだよ。お前ら、俺等の大切な後輩苛めたら
ただじゃおかねえ」
いったいどっちがチンピラだろうか?
1トーン声を低くして睨みつける伊丹に、男達はビクリと肩を震わせると、一目散に逃げ出していった。
その後姿を苦々しく睨みつけると、スッとへ視線を落とす。
「怪我は?」
「な・・ないです。その・・すいませんでした・・・」
まっすぐ見下ろしてくる伊丹の視線がとても辛くて、は顔が上げられず目を泳がせながら
俯いてしまった。そんなの仕草に伊丹と三浦、そして芹沢は顔を見合わせる。
「なんだよ。言いたいことがあるんだろ?」
「え?」
溜息混じりに吐き出された伊丹の言葉に、は僅かに顔を上げた。
それでも顔は完全に深く俯かれたまま。
「言えよ。俺等お前の先輩だろ?後輩の悩みを聞いてやるのが先輩ってもんだろ」
「・・・・い・伊丹先輩ぃ・・・」
「っ!!なっ何泣いてんだよっ。お・・俺か?!」
「わー。先輩、ちゃん泣かしたんっすか」
「ばっ!んなわけねえだろ!」
伊丹の言葉がじんわりとしみこんでくるようで、は堰をきったように泣きじゃくった。
先ほどの怖さから開放された安堵感もあるかもしれない。
そんなに伊丹は慌てて、ハンカチを取り出しの頬を拭う。
シラッとチャチャをいれる芹沢を威嚇すると、優しくの頭を撫でた。
「ごっめんなさい・・・。私っ不安だったのっ
だって、いつもい・・・・つも先輩達の足を引っ張って。
私何もできなくてっ迷惑ばっか・・私・・警察官なのにさっきだって・・」
ボロボロと涙をこぼし、しゃくり上げながらも言葉を紡ぎだすの姿に
伊丹達は思わず胸が痛くなった。
「なんだよ・・そんなことずっと考えてたのか?」
「おいおい、そうじゃねえよ嬢ちゃん」
「・・・・・ふえ?」
フワリと伊丹と別の手がの頭を撫でた、ごつごつとした大きな手と降ってきた声に
はやっと顔を上げる。
真っ赤になった目がきょとんと三浦に注がれている。
そんな少し間抜けそうな顔に小さく笑うと、ポンポンとの頭をたたいた。
「迷惑だなんてこれぽっちも思ったことねえよ。
嬢ちゃんは立派な警察官・・いや、刑事だ。嬢ちゃんの仕事振りは俺達三人がよく知っている。
この間の取調べだって、伊丹より全然うまくいってたじゃねえか」
「おい、三浦;」
「お?なんだ伊丹?
な?不安がることはないんだって」
「そうそう!ちゃんは立派な刑事としてよくやってるって!」
「ふんっお前以上にな」
「わっひっでー!!伊丹先輩!」
「うっ・うぅ・・三浦先輩ぃ〜・・芹沢先輩・・・」
また零れだしそうになる涙はもう悲しみの涙ではないことは自分でも良くわかっていた。
嬉しさと安堵感の涙。けれどもその涙もどう止めようとしても、なかなか止められない。
必死に食い止めようとしているに三浦はよしよしと頭を軽くたたき、落ち着かせる。
「よおし!今日は勤務終わりだ」
「はいっちゃんこれ」
「あ///ありがとうございます」
伊丹の言葉を受けると、芹沢はにジャケットとカバンを渡す。
シャツ姿で飛び出していたのだと思い出すと、恥ずかしそうに笑って受け取った。
その様子を確認するように伊丹は頷くと、サッと踵を返す。
「よおし〜行くぞ!」
「おう」
「ほらっちゃんボーっとしてない!行くよー」
「え?どこにですか?」
足早に歩き出す三人には不思議そうに首を傾げた。
「決まってんだろ〜が」
やや苛立ち気味に伊丹が振り返る。
三浦と芹沢も小さく笑いながら振り返り、を手招きする。
「後輩の初!啖呵祝いに決まってんだろっ。もたもたすんな!俺は腹減ってるんだ」
「おいおい呑みたいんだろ?伊丹」
「ちゃん気をつけなよ?伊丹先輩呑んだくれると長いから」
「うっせ!!・・・・そのなんだ、俺達には言いたいことちゃんと言えってことだ」
恥ずかしげに目を泳がせながら、ポケットに手を突っ込む伊丹の姿に
は僅かに目を見開いた。そのまま芹沢へと視線を向ければ、力強く頷き返され。
再び伊丹へと視線を戻すと、赤い目のままにっこりと微笑んだ。
「はいっ。ありがとうございます!先輩v」
「「「////////」」」
そのとびっきりの笑顔に、泣く子もさらに喚かせると名高い捜一トリオはしばし、
頬を染めて固まっていたという。
その後、さらにかわいい後輩をガードする結束が高まったとか。
足早に歩き出す伊丹達には小走りに後をついていった。
その表情はとても晴れ晴れしいもので。
「あ、伊丹先輩!私強いですからね!」
「おっ、いいじゃねえか。頼もしい後輩だな」
「だな。芹沢も見習えよ〜」
「げー。酒豪トリオかよー!!きついっすよ〜!!」
話の構想はかなり前からあって、ぜひとも書きたいとおもっていたのですが、
いざ、文にあらわすとなかなか書けずに難航しました。
伊丹刑事夢は多いですけど、捜一トリオ夢は初めてですかね?
キャラクターがちゃんと出ていればいうことありやせん;
つか、逃げます!!
2005/06/18執筆