少女無事確保の伝達に、ホテル内に設けられた前線捜査本部は先ほどの
重苦しい空気を一掃するかのような大歓声に包まれる。
も皆と同じに歓声をあげ隣にいた同じ班の刑事に抱きついたのだった。
































+初日の出+
























本来ならば、家族で迎えるはずだった新年。
家に帰り、ゆっくりとお風呂に入ったを待っていたのは、炬燵を囲んでの家族でつつく美味しい鍋。
テレビから流れる紅白の歌を話のネタに一年を振り返る。
父親がニコニコと銚子を突き出す。

「一年お疲れさん」

その言葉にへにゃりと頬を緩め、お猪口を手ににしたその時だった。
ジャージのポケットに入れた携帯電話がけたたましく鳴ったのは。







現場に急行して渡されたのは防弾チョッキ。
騒然とするホテルの状況に気を引き締めるようにチョッキを着用しながらホテルのエントランスを
くぐると同時に耳を掠めた聞きなれた男達のやりとり。


「先輩のせいですからね」

「ったく変な呪文唱えやがっておめぇーはよぉ」

「っつたってよぉ・・・お、ごくろーさん」


顔をあげればやはり思った人物で。班は別だが同じ捜査一課の刑事の
芹沢・三浦・伊丹の三人だった。に気づいた伊丹がどこかバツの悪そうな表情に
首を傾げつつ伊丹達にも


「皆さんも。大変な大晦日になっちゃったね」

と小さく笑えば、居心地悪そうに「まあな」と返される。


「お嬢。恨むんならこいつを恨みな」

「そうそう、ちゃんだって彼氏とデートだったんでしょ?!」

「ばっ!なあにまで巻き込んでんだよ!!って彼氏ぃ?!そうなのかっ!!」


「へ?」


まったく意図の読めない三人のやりとりと伊丹の慌てた姿に、の頭は??記号で満載だ。
そんなやりとりを続けながらも歩調は緩むことはない。

事件はとても単純なように思えた。SITの交渉と全力突入を持ってすればすぐに片づく勢い。
しかし、はどこか腑に落ちない。モニター越しに映る被疑者の表情にどこか引っかかりを覚える。
それと


「なんで大河内?」



ポロッとこぼれた言葉に、隣にいた同じ班の刑事が慌てての口を塞ぐ。
どうやら管理官の座を狙い、今回試験的に捜査を指揮することになったらしい。


「なに点数稼ぎ?。ちょっと今回は奴には荷が重いんじゃないのぉ?」


いけしゃあしゃあと呟くに、同僚は真っ青になっての口を塞いだまま廊下へと連れ出す。
幸い誰にも聞かれなかったようで、同僚の刑事は盛大に息を吐き出した。


「ちょっ!おま頼むぜぇ;班長だけで冷や汗もんなのにお前まで;俺の胃絶対ただれてる・・」

「黙れ。そんな弱々しい胃などとってしまえ。
でも、今回のヤマはただの人質立て篭もりじゃないね。あのカチカチに硬い
大河内で本当に大丈夫かよ・・・・・と・・あれ?って特命じゃん?」


ふと視界の隅に映った人物に心当たりがあり、そちらへと顔を向ければ特命係の杉下と亀山が
捜査本部へと入っていく。
「へー・・召集されたんだ」と珍しげに声を上げるに同僚が言葉をつなげる。

「なんでもパーティ会場に居合わせたらしいぜ?被疑者の言葉に不信感を抱いて
ギリギリに防いだらしい」


「ふーん。ま。特命さんがいれば変な方向にはずれないでしょ」


なんだかんだ言われても、あの杉下警部は一流の警察官だ。






それから事件はタイムアウトへと確実に進みながら二転三転。
伊丹達は外へと出払い、の班はホテルで待機していた。

そして迎えた終幕。

被疑者との交渉の末、逃げ帰ってきた男二人をが回し蹴りで倒してやったら
周りにいた仲間達がうんうんと頷きながらパラパラと拍手をした。
だが、さりげなく見ていたのであろう。
事件後、の後ろを通り過ぎざまに

「やりすぎですよ」

と、杉下警部に窘められてしまった。




本当の被疑者が連行されるとホテル内は撤退作業で活気づく。
人質になった少女も無事確保され、怪我人はでたものの誰も命をおとすことなく迎えた結末に
どこか皆嬉しそうだった。
作業の邪魔にならぬようにフロアの隅までくるとスーツから携帯電話を取り出す。
発信相手は、特別任務を与えられ今回は別行動だった班長。
数回の呼び出し音がの耳を掠める。





<・・・日野>


「班長!ご苦労様です」


<おーか。くそさみーよ此処はよ。おめぇ帰庁したらよコーヒー淹れとけ>


「了解。それにしても班長さすがですね。間一髪でしたよ」


<あ?おめぇ俺に喧嘩売ってんの?俺の腕舐めてもらっちゃあ困るよ?>


「いいえーv尊敬してるんですって」


<なんか腹立つ言い方だなおい>


「とびきり美味しいコーヒー淹れておきますね!」






その後同僚や伊丹たちと合流し帰庁したのは深夜の3時を少し過ぎた頃だった。
さすがに疲労の色が濃くなり始めた面々に、濃いめのコーヒーを淹れる。
事件は解決すれども、まだまだ仕事は終わらず。事後処理という立派な業務にも小さく溜息をつく。
思いのほか面倒くさい書類で、それをようやく仕上げれば6時が過ぎていて。
ここまでくるともうどうにでもなれ状態で、日が昇ってから帰宅しようと背もたれに寄りかかる。
それとともに感じる空腹感。


「そういや帰ってきてからコーヒーしか口にしてないや」


そうデスクの引き出しから財布を取り出すと、コートを手に取る。


「班長ぉ、コンビニでご飯買ってきますけど何か買ってきますか?」

「おー・・・腹にたまるもの」

「はーい。どうする?」


そう同じ班の同僚達に問えば、各々おにぎり・サンドイッチと力ない返事が返ってくる。
これはだいぶ疲労がたまってる、早く何か食べさせようとは足早にドアへと向かった。







「ん?あ、伊丹刑事」



どこか慌てたような口調で呼び止められ振り返れば、これから出かけるのかコートを手にした伊丹が
こちらに向かってくる。
の前までくると一瞬目を彷徨わせて、を捉えた。



「まだ外は暗い」


「ん?あ・・そうだね」


一人じゃ危ねえだろ・・あ、いや;俺もコンビニに行くから一緒行こうや」


「うん!」






二人並んで出て行く様子をニヤニヤと見送る男が二人。



「先輩、やーっとちゃんにアタックですよ」

「相変わらず奥手だよなぁ」


「何、伊丹のヤロウ、うちのにほの字なの?」



「「・・・・」」




「うわあっ!びっくりしたぁ!!」

「日野警部補いつの間に?!」




他の班に聞こえないように小声で話し込んでいた芹沢と三浦。
だがそれに第三者の声が響き、一瞬固まりちらりと声のした方を見やれば
いつの間に来たのだろうか、伊丹のデスクに日野がふんぞり返っていた。
目を丸くして驚く芹沢と三浦を鼻で笑うと、「どうなんだよ」と両手を頭の後ろで組んで話を促す。



「え・・まあ・・・伊丹先輩わかりやすいですからね」


「かれこれ2年ほどですよ・・」


「ふーん」



意図の読めない日野の反応に、芹沢と三浦は例えようのない焦りが体中を駆け巡った。
警視庁ナンバー1のスナイパーとして、また捜査一課内でも「鬼の班長」として密かに有名な日野警部補。
とても厳しい人なのは外見からでも容易に想像できる。
そんな人が課内恋愛など見逃すはずがない!!やばい!伊丹先輩の命が狙撃される!!




「ぉおい、どうするよてめぇーら。と伊丹初々しく両思いだってよぉ」


「まじっすか班長ぉぉぉぉ!!」


表情の読めぬ日野が、自分の班の刑事達にやる気なさそうに声をかければ、
ガタッガタタッと音を立てながら、驚いたように立ち上がる日野の部下達。
驚いたのは芹沢と三浦もで。「へ?」と日野と驚きに固まっている日野の部下達を交互に見やる。
そして恐る恐る日野へと再び視線を戻せば、まだ頭の後ろで両腕を組んだまま、
ニヤリと口端をあげる日野が芹沢と三浦を捕らえていた。

















。それ重いだろ、持つ。」


「え?大丈夫だよ、それに伊丹刑事だってもう両手に荷物じゃない」


「う;じゃあこれと交換だ。こっちの方が軽い」


「でも・・」


「ん」




渋るから強引に袋を受け取ると、軽めの袋を手渡す。
「ありがとぉ」と少し頬を染め小さく呟くに、伊丹もほんのりと頬を染め「おう」と返す。
当たりは徐々に明るくなり、元旦のせいか早朝にも関わらずちらほらと人がいる。
二人他愛のない話をしながら、ノロノロと警視庁へと足を向ける。


「あーあー・・・お互い災難のお正月になっちゃったねぇ」


「そうだな」


「日本酒飲み損ねちゃった。もう空だろうなぁ・・・」








”お嬢。恨むんならこいつを恨みな”

”そうそう、ちゃんだって彼氏とデートだったんでしょ?!”




数時間前の出来事がくっきりと思い出され、伊丹はわずかに顔を顰めた。
そしてつとめて明るい声でを見やる。




「彼氏とデートだったのか?」


「へ?」


きょとんとした表情が返ってくる。





(きっとこいつにはもう好きな奴がいて、2年もなにもできなかった俺は本当に馬鹿だよな)



から視線を外して、袋を持ち直す。ほんの少し歩調が速くなった。





「私・・彼氏なんていないよ?」


「!?」



「久々に家族全員揃ったの、妹も来てさ。それが今回の事件でしょ?
今頃皆で初日の出拝みに行ってるんじゃいかな?」


はあっと吐き出された息が、白く凍る。




うちのお父さん酒豪だからさー、もう残ってないかもー。



とても残念そうなの横顔に、胸が軽くなる。



「そうなんだ」

「うん、そうなのよ」

「そうかそうか」

「そうそう」





何度も頷く伊丹の姿に、クスリと笑う。
なんだよとちょっと睨まれた。
なんでもないよとまだ笑ってみせる。


ふと、あたりが一層明るくなった。
二人同時にそちらへと視線を向けた。







「陽が昇る・・・初日の出だね」


「あぁ。・・・っそこの歩道橋に上がって拝んでいこうぜ」


「うんv」









ちょっと小走りになって歩道橋へと上がれば、今まさに新年第一号の陽が顔を覗かせたところだった。
二人並んで初日の出を拝む、燃えるような橙色に冷え切った体がじんわりと温められるようだった。
そっと袋を足元に置いて手を合わせるを横目で見やると、伊丹も同じように手を合わせる。









「今年もよろしくですv伊丹刑事」

「おう、よろしく」











再び袋を手にして、目の前の警視庁へと足を向ける、と、一瞬は思いついたように
伊丹の顔を覗きこんだ。




「伊丹刑事v何を祈ってたの?」


「ぁあ?」



上目遣いでにっこりと見つめてくるに、言葉が詰まり足早に歩道橋を降りる。



「あっ待ってようっ」


「・・・・・・・・よう祈ったんだ」


「へ?」






歩道橋の階段の中間で足を止める。はまだ橋の上で不思議そうに伊丹の背中を見つめていた。
ゆっくりと振り返るその表情はとても真剣なもので。











とずっと一緒に仕事できるよう祈ったんだ




「え・・・それって・・・・」



「あー寒いなぁ!早く帰ろうぜ!腹も空いたしよぉ!」


「あっ待ってよぉ!」






ねえそれは期待してもいいってこと?


だって


それを呟いた貴方の顔はとても真剣で


初日の出の橙色のように赤く染まっていたの






「私もそう祈ったんだよ」




そう呟いた言葉はどんどんと歩いていく貴方には届かなかったけど、

エントランスで追いついておそるおそる横に並んだら、歩調を合わせてくれた。

そっと彼を見上げれば、とても恥ずかしそうに視線を泳がしながら、一瞬だけ私を捉えてくれた。












今年はなにか良いことがありそうな予感がした瞬間。

























その後一課に戻った二人は日野の発言で、両思いだとわかって
恥ずかしそうにしながらも一緒に帰ったらしい。
翌日から日野によるさりげない伊丹いじめが始まったのは言うまでもなく。


すんません!ふつうにちょい甘甘ショートケーキを目指したつもりが、

元旦スペシャルすでに5回見直したほどはまった
日野警部補にはまった(だってあなた私踊る好きよ?アンフェア好きよ?)

ため、途中全然ドリームじゃなくなってしまいました!
しかも後半こじつけたように伊丹んドリ!いたたたっきびしすぎよ私っ!
むちゃくちゃこじつけたよっ!
日野警部補の性格勝手に捏造。さんは日野班のアイドルなんです。
だからきっと伊丹んいじめられるのです。
捏造もいい加減にしろや俺!

(2007年1月3日 執筆)