「はふうやっぱり杉下警部がいれてくださる紅茶は
最高です〜













































+紅茶とクッキー+

























持参したひまわり柄のマグカップを両手で包み込むように持ちながら、 はほんのりと頬を紅潮させ
幸せいっぱいの溜息をついた。
警視庁の墓場と有名な特命係。
しかし、そんな言い方をされているにも関わらず、ここ特命に訪れる者は少なくない。
同じ部署の角田は毎日数時間おきに顔を出すし、鑑識の米沢が事件の情報を流しにくれば
その度に怒鳴り込んでくる亀山のライバルでもある捜査一課の伊丹。
何かと気にかけてくれる大河内監察官や、それこそ神出鬼没に現れる小野田官房室長。
多くの人間が特命に訪れる中、も頻繁に訪れる一人であった。

杉下とはローテーブルを挟み、向かい合いながらのんびりと紅茶を味わっていた。
今は3時の休憩時間であり、だからこそ他の部署の人間であるはここにいられるわけなのだが。
ローテーブルの上にはが持参した手作りのクッキーが、ひと時の休み時間に安らぎを与えてくれる。
自分のデスクの椅子を持ち出し、背もたれを抱え込むように腰を下ろしている亀山は、
紅茶を味わっている杉下ととは違い、コーヒーをすすりながらが作ったクッキーを
無我夢中でほおばっている。


「ありがとうございます。さんにそう言ってもらえると大変光栄です。
それにこのクッキーも大変美味しいですよ

「///えへへ。私も杉下警部にそう言っていただけるととても嬉しいです

さらに頬を染め上げ、にへらぁとはにかみ笑えば、杉下もさらに微笑む。
そんなほんわかムードの二人の間で、まだ亀山はクッキーをほおばっていた。
空気を読みましょうカメヤマ君。


「あ、ところでよー。今追いかけているヤマどうよ?」

口端にクッキーのカスをつけたまま真剣な表情で身を乗り出してきた亀山の姿に、
小さく笑いつつも「んー」と思い出すようにマグカップを置いたその時だった。



「やっぱりここにいたか!!」

「ほえ?」


が口を開くと同時に特命室いっぱいに響く声をあげながら、伊丹が飛び込んできた。
きょとんとしているに深々と溜息をつくと、ちょいちょいとを手招きする。

「お前なぁ;一課の人間がこんな所でのうのうと茶してんなよ;
・・・・・・まさか・・・警部さぁん?まぁた使ってこそこそ嗅ぎ回ってんじゃないでしょうね?」

帰り支度をしているを横目に、はたと伊丹は疑い深く杉下を見やった。
涼しい顔の杉下の横で、まだクッキーをほおばりながらギクリと肩を揺らす亀山に
伊丹の鋭い舌打ちが響く。

「ぉおい!亀っ余計なことすんじゃねえよ!」

「う・・うるへー!」

さらに口を開きかけた伊丹の横で、すすいだマグカップをきれいに拭き手にした
杉下にぺこりとお辞儀をした。

「杉下警部!紅茶ごちそう様でした」

「はい。またいらっしゃい

「はひっ













「おっまた特命に顔出していたのか?」

伊丹に引きずられるように一課へ戻ってきたに、三浦は呆れたように笑った。


「はひっ杉下警部がいれてくださる紅茶は
絶品なんですもん!」

「おーお前は紅茶好きだもんなぁ」


にっこりと答えるに三浦も笑い返す。
そんなのんびりとした二人の空気に伊丹は容赦なく割って入ってきた。

「っかー!?和むな!お前なぁ・・」

「はひ。何でしょう伊丹先輩?」

きょとんと首を傾げて見上げてくるに、伊丹は続けようとした言葉を飲み込んでしまった。
実は一課のマスコット的な存在の
特命に情報を流すなと強く念を押してやるつもりが、そのかわいらしい気な表情に伊丹は
いつもの調子がでない。



「っだから・・そのなんだっ。特命に何でも情報を流さないようにな!」

「あ・・・はひ・・すいません;」


少し落ち込んだ声に「それだけだから!怒ってねえから!」と
慌てて付け加える。


「にしてもちゃん、本当に杉下警部が好きなんだねー」


三浦の隣でと伊丹の様子を眺めていた芹沢がのんびりと口を開いた。
「えへへ」と照れ笑いをするに、呆れ顔の伊丹。
自分のデスクに腰を下ろしながら小さく毒づく。


「あの変人警部のどこかいいんだかねー」

「むっ先輩ひどいです!!」

頬を膨らましながら伊丹の隣の自分のデスクにつくと、その体を勢い良く伊丹に向ける。


「確かに変わっているという人もいますけど・・とても良い方です!!
多くのことを知っているし、お話しているとあっという間に時間が過ぎて本当に楽しいんですから!!」

「あ・・うん・・;悪りィ;」

勢い良くまくし立ててきたに、さすがの伊丹も反論ができず
さらに興奮させまいと宥めるのが精一杯のようだ。しかし、


「でも・・・」


と、急に声を暗くしたに伊丹と三浦、そして芹沢は何事かと顔を見合し、
怪訝そうにの顔を覗き込んだ。


「私のことなんか気にも止めてもらえないと思うんですよぉ・・・」


後輩の弱々しい告白に、三人は目を見開き勢い良く立ち上がった。
シュンと俯いたの表情は今にも泣きそうである。
伊丹と三浦は怪訝そうに顔を見合し、その視線を芹沢へと向けた。
(お前が話を聞け!そして解決させろ!)と言わんばかり視線に一瞬たじろくも
今回ばかりは芹沢も先輩二人に(無理っす!!)と強く首を振る。
取り乱している大の男の様子をわかっているのかいないのか、は遠い目で小さく呟いた。

「私なりにアプローチしているんですよ?少しでも話題が広がるように自分なりに紅茶のこと
深く勉強したし、チェスも覚えて。持って行くお菓子だってさ・・・。
でも肝心なことがいつも言えないんですっ。
今日っやっと決めたのに!!!いざとなると怖くて;
先輩ぃ・・どうしたら杉下警部に振り向いてもらえます?(T^T)」

泣きが入りはじめたを宥めるように肩をぽんぽんと軽く叩くと、伊丹は三浦と芹沢を
少しはなれた一課内の休憩所へ呼びつけた。
に聞こえぬよう額をつけ合せ、低く小さく口を開く。


「なあ、もしかしなくてもはあの警部に・・?あれか?」

「間違いねえな」

「間違いないですね」


三人同時、ゆっくりとに視線を走らせれば、の周りだけ妙に空気がどんよりしている。
今日あたり告白に持ち込む予定だったのだろう。
しかし、それはどうやら失敗に終わってしまった。
持参したクッキーはほとんど亀山の胃の中に消え、ようやく決心がついた頃に伊丹が連れ戻しに・・・


「ちょい待て。俺のせいか?」


記憶を遡っていた伊丹が、はたと声を上げた。
あの時を連れ戻しにいかなかったら、おそらくは杉下に想いを告げていたのかもしれないのだ。


「いやでも、あの調子じゃあ先輩が特命に行ってなくても、言えなかったんじゃないっすかねえ」

「にしても一課のお姫さんが特命の・・あの警部殿にねぇ・・・」


三人はなんともいえないといった表情でを見つめていた。
結局三人はの悩みを解決ができぬまま休憩時間は過ぎ、ほどなくして退庁の時間をむかえた。
どんよりしていたも退庁時間になる頃にはやっと平常心に戻り、のそのそと帰り支度をしている。
その様子を見ていた伊丹達も、今日は何も言わない方がいいと暗黙の了解で
横目でちらちらとの様子を伺いつつ、自分たちも帰り支度をはじめたその時だった。



「失礼します」


妙に落ち着き払った声が響き、は弾かれるようにして一課の入り口へと振り返った。
にとっては絶対聞き間違えない声。


「杉下警部!」


驚きと嬉しさが混じった声に伊丹達の視線がに、そして杉下に向けられた。
手に持ちかけていたコートをデスクの上に置くと、小走りに気味に杉下へ駆け寄る。


「どうしたんですか?」


階が違う上に、杉下が一課へ訪れるのは非常に珍しい。
「何か調べものですか?」と続けるに小さく笑いながら首を振ると、自分の腕にかけている
コートを軽く持ち上げてみせた。


「僕はもう帰るのですが、もしさんも退庁されるのでしたらお茶でもどうかと
思いましてね。とびきり美味しい紅茶が飲める喫茶店があるんですよ」


そうさらに笑みを深くする杉下に、の目が僅かに見開かれた。
一瞬何のことだか理解できずに固まっているに、小さく首を傾げる。


「あ・・まだ仕事が残っているのですか?」

「いいえ!!は今帰るところで!な!?!」

「ほら!嬢ボサッとしてないで早く用意しろって!」

ちゃん!コートコート!」



呆然と立ち尽くしているの言葉を代弁するように、伊丹達ががばりとを取り囲み、
無理やりコートを着せカバンを持たせ、半強制的に一課から追い出した。
一課から出たところでようやくの思考回路は動き出す。


「あ・・んと;」

「はいvじゃあ行きましょう」

「え?あ・・・はひっ


ドアを薄く開けて様子を伺っていた伊丹達は、と杉下の姿が廊下の曲がり角へと消えていくと、
大きく息を吐きながらドアを大きく開けた。
まだ納得できなさそうな表情の伊丹は頭をわしわしとかきながら、廊下の角を見つめている。


「解せねえけど、まあいいか」

「とかいって、悔しいんじゃありません?」


ニヤニヤと突っ込む芹沢にクワッと威嚇をすれば、三浦がそれをやんわりと宥める。



「まっ。もてねえ俺達は今日も寂しく飲みに行こうぜ」



訂正。

やんわりとトドメを刺した三浦に伊丹と芹沢はグッサリと心が痛んだとか。














冬の澄み切った空はの心を表しているようだった。肌に吹きつけるビルの隙間風がとても痛いけれど、
は頬を紅潮させ嬉しそうに微笑んでいる。そんなの横顔をちらりと盗み見ると杉下は小さく笑った。


「今夜案内するお店は僕の秘密の場所なんです」

「はひ?」


おもむろに口を開いた杉下に、はきょとんと杉下を見つめた。
杉下が微笑むと目の端に小さく皺が寄せられ、はそれが大好きだった。
大人の魅力溢れる横顔に見惚れてもいた。
その横顔をじっと見つめながら杉下の紡ぐ言葉の続きをじっと待つ。



「特別の場所なんですよ」


「特別な場所・・・」


「はい。誰にも教えたくないんですよ」


「???」


特別の場所に杉下はを案内しようとしている。
けれども目の前の杉下は「誰にも教えたくない」と口開き、は僅かに動揺した。
軽く眉間に皺を寄せながら考え悩んでいるの横顔が杉下の視界に入り、クスリと笑う。



「そう、ですから貴女は特別なんですよ。さん」


「・・・・・え/////」


バッと振り向けばまるで悪戯っ子のような笑みを返され、言葉が喉元にひっかかり出てこない。
まだよくわかっていないの手をそっととると、静かに足をすすめた。



「特別な人と特別な場所へ。この意味わかってもらえすか?」



微かに杉下の頬が赤いのは寒さのせいだろうか。
しかしそれよりもの顔はトマトのように真っ赤に染まっていた。
ふわりと向けられる優しい微笑みに、の頬も次第に緩んでいく。



「さあ、寒いですから早く行きましょう」

「はひっ






冬の澄み切った空、銀色に煌く星たちが新しい恋人達に微笑むように小さく揺れた。






















初!右京さん夢!!!
yoipanさんに右京さん夢を!といいながら早数ヶ月;じつは何度も書き直してました;
もう伊丹刑事夢はポンポン出てくるんですけど、右京さんはキャラクターを壊さぬようにと
気を使ったのですが、どうですかね;相変わらず捜査一課が出張ってますが;

このドリームはyoipan様のみお持ち帰りができます。
また感想もいただけるととても嬉しいです。


2005年2月8日。