あのムカつきまくった公安絡みの事件は、俺達捜査一課よりも情報を入手していた、特命にもしこりを残し解決した。
被疑者が死亡しての解決だった。
しかし、いつまでもそれだけにかまってはいられはしない。
水が湧き出るように事件が多発し、俺達は日々這いずるように現場へと向かうのだ。
そんな慌しいある日、特命の亀山が捜査一課に駆け込んできた。
てめぇの部署じゃねぇだろと追い払ってやるつもりが、普段見ることのない亀山の慌てた表情に
その言葉は深く飲み込まれ。
こんなにも狼狽えた亀山を見たのは初めてかもしれない。
「で?何おもしろいほど狼狽えてんだよ」
伊丹は自分のデスクに片手頬杖をつきながら、伊丹のデスクにしがみつきゼエゼエとしゃがみこんでいる亀山を見据えた。
珍しく亀山を見下している体勢にほんの少しの優越感に浸る。
そんな伊丹の嫌味にも反応できないほど、亀山は顔を真っ青にさせ彼を見上げた。
「頼むっ!少しでいいから匿ってくれ!」
「はあ?」
何言ってんだと眉間に皺を寄せるが、亀山の目は真剣そのものだ。
いくら気に入らない奴とはいえ、こんなに狼狽えている亀山を邪険に追い払うのも気が引ける。
伊丹は呆れたように溜息をつくと、さも面倒臭さ気に人差し指でこめかみをかきながら事情を促した。
「この前、車で逃走した被疑者を右京さんと追いかけたんだ・・」
「へー?」
「・・運転していたのは右京さんでよ・・・」
「ほー?」
亀山は青ざめながら思い出すように遠くを見つめた。
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あの日以来、車に乗るたびに杉下は自ら運転席に座ろうとしていた。
しかし、
あの日以来、亀山は杉下の運転する車にはもう二度と!絶対に乗るまいと心強く誓っていたのだ。
命がいくつあっても足りない!そこまで思うほどに。
そんなある日のこと、角田から張り込みの要請があり、杉下と亀山は現場へ向かうため、地下駐車場へと向かった。
「現場は平和台のアパート、ピースライフ5号室っすね」
「えぇ、平和という地名なのになんとも物騒な世の中ですね。・・・何しているんですか亀山君。早く乗ってください」
颯爽と運転席に乗り込んだ杉下は、ぽかんと口を開けたまま突っ立っている亀山を些か怪訝そうに見やった。
「あんのぉ・・・右京さん」
「なんですか?」
「まさか・・・右京さんが運転するんですか?」
「いけないですか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「とっとんでもない!!部下であるこの俺が運転します!!
つか、是非ともさせてください!!」(必死)
「気にしなくていいですよv」
「冗談じゃありま・・・じゃない;だめですよ!!俺が運転します!
右京さんは助手席へ移ってください!!」
慌てふためく亀山に、杉下の表情が些か凍りついたが亀山は気づく由もなく。
やや冷気帯びた笑みを浮かべながら、ハンドルに軽く肘をかけ亀山へとゆっくりと顔を向けた。
亀山は気づいていないが、そのときの温度は氷点下並だったと当時現場を目撃した捜査一課の芹沢刑事が証言している。
「君は僕の運転に不満でもあるんですか?」
その冷笑を目撃した生活安全部の「様子見大好きコンビ」は、まるで地下駐車場に突如として
南極大陸が現れたみたいだったと語っていた。
しかし、そんな彼らの証言も亀山にとっては問題外である。彼にとっては生死が関わる大問題なのだから。
杉下の冷笑など気づく由もない亀山は、必死に杉下を運転席から引きずりだそうと苦戦していた。
「(ぎくっ)ふっ不満だなんんてとんでもない!こう・・・なんつーか・・・;
運転技術が鈍くなっていて;!!そうそう!最近美和子に「薫ちゃん運転下手になったね」と言われちゃったんですよ!!vv」
「貴方達は別れたのでは?」
「はうわぁっ!!;;;;;とっとにかく!俺が運転します!!
右京さんはこっちに!!ね!?ね?!」
「そこまで仰るのなら仕方ないですね・・・」
「助かった・・・・」
「何か?」
「いえっなんでもありません!!さあ!行きましょうかv」
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「・・・・てなわけでよ・・・・それから俺が運転するたびにチクチクときり返しが遅いだの、
スピードがどうのこうの言うんだよ・・・・」
いつの間にか亀山と伊丹の周りには、亀山の話に聞き入るギャラリーで囲まれていた。
駐車場でのいざこざを目撃していた芹沢の助太刀も加わり、亀山の話はさらに盛り上がりをみせていたのだ。
哀れに思ったのか三浦が亀山にコーヒーを差し出す。刑事副部長は亀山の肩をポンポンと叩きながら、
彼の前に菓子を置いた。
「さっきも「さあこれから練習に行きましょう」ってすーっげーにこやかな笑みで(涙)
俺思わず逃げ出してたんだ・・・(さらに涙)」
伊丹は無言で煙草を取り出し、亀山にすすめた。
特命は警視庁の墓場だと、また杉下右京の下についた者はことごとく警察を去っていくと
有名だった。しかしその中でも7年以上も続いている亀山は今こうしてみればよく頑張っているなと
感じずにはいられない。心なしか、一課にいた時よりも痩せた感じがすると煙草に火をつけながら
伊丹はちらりと亀山を見やった。
「まあ・・そのなんだ;・・・頑張れ・・な?」
「さんきゅー・・・」
ライバルのさり気無い言葉に亀山は心から「好敵手っていいなー」と実感したとか。
しかし、そんなひと時な時間は脆くも崩れ去ることになる。
「おやおやvやはりここでしたか。か・め・や・ま・君」
一同「・・・・・・・・・・・・・出た」
捜査一課内に嬉々とした声が響き渡り、一同は一瞬にして表情を固め恐々と入り口へと振り返った。
そこにはやはりというべきか、満面の笑みを浮かべた杉下右京が後手で手を組みたっていた。
しかし満面の笑みとは裏腹に、その目は鋭く亀山を見つめている。
「さあ、亀山君。出かけますよ?なんなら僕が運転しましょうか?」
「いっいえ!!自分が運転します!!」
表情を真っ青にさせ、亀山は杉下に襟首を掴まれながら捜査一課を去っていた。
その数日後、
鬼教官・杉下にチクチクと嫌味を言われているのであろう、伊丹は廊下でげっそりと痩せた亀山を見つけ
心から素直に同情した。
彼の受難は数ヶ月続いたといわれている。
1月5日放映、相棒スペシャル「潜入捜査」の中で、被疑者を追いかけるために
右京さんが運転するシーンがあったのですが、そのシーンを見て「右京さん・・なんかおっかなびっくりで運転してる?
もしかして右京さん運転・・・」と。もちろん演技ということは百も承知ですよ!!
で、そんなことをyoipanさんとメールで語っていたら、素敵なミニ小説が!?
もうっ危うく電車の中で噴出すところでしたv(つか噴出しました。;)
そして、yoipanさんからいただいたミニ小説からさらに話をつくってみました。
というか管理人が捜査一課好きなので、どうしても伊丹刑事を書きたかっただけですが;あは
ちょっとでも楽しんでもらえたら光栄です。
2005年1月29日執筆