予約すらもなかなか取れないレストラン「地中海ナポリ」で行われた合コン。
大学時代来の友人の頼みでサクラとして参加することになってしまった私。はじめは全く乗る気はなかったの。
男なんて作る気は全くないし、それに私が警視庁の鑑識の人間だと知ったらずぇーったい遠慮されるもの。
でも、その場所があの!地中海ナポリなら話は別!!ここのパスタは本当においしいって有名だし、
ここオリジナルのビールも病みつきになること間違いなし!ともっぱら噂なんだから!
お店のエントランスをくぐり、深海を思わせるエレベーターで地下へと降りれば
そこはまるで洞窟を思わせる幻想的な光景。ん〜。お腹すいてきた〜!!
予約すらなかなかとれないというのに、今日のお客さんは私達だけ。でもそれはすぐ頷けた。
ここのお店は10人入ったら満席なんだもの。8人ものグループが来れば必然的に貸切になる。
これで予約がなかなか取れないわけがわかった。
事件続きに長い期間警視庁に缶詰状態で、「たまには羽を伸ばしてきたら?」と米沢さんの言葉に
甘えさせてもらって息抜きしようとしてたのに!!









なんで?!





















なんで!?




























「相棒連鎖  2」






















「あんた、フットサルなんかやってたの?」


「悪ぃかよ」


「そうじゃなくてっ、いつやるのよ。捜査一課っていつも忙しいじゃない」




「おい、伊丹〜。さんとばかり話してないで俺にも話しさせろよな〜」




互いに挨拶を交わし、酒を交わしながら話が弾む。
気の利いた女をアピールするために、意気揚々と由香里が立ち上がり皆におしぼりを配り歩く。
積極的な浩子はスポーツが大好きということもあり、早くも向かい席に座っている
石崎と意気投合していた。
石崎は短く刈り込まれた髪に、明るそうな雰囲気で特命係の亀山を思い起こさせる。
恥ずかしがり屋の雪江とその向かい席にいる坂下は、浩子と石崎の話をにこやかに聞いている。
坂下はハンサムでプレイボーイの感じがする男だった。少し長めの髪に茶色のメッシュを入れている。
伊丹と坂下だけがスーツ姿なのだが、伊丹の濃紺のスーツ姿はまあ見慣れているせいもあるだろうが
濃いグレーにストライプが入ったスーツの坂下と比べてみると、どう色眼鏡を使っても刑事にしか見えなかった。
なかなか出だし好調の中、と伊丹は周囲に聞こえぬ小声で互いに睨みあっていた。
苦々しくを見据えながら口を開きかけた伊丹の横から、轟が意味ありげに伊丹の
肩をバンバン叩きにウインクする。
浅黒い肌にがっちりとした体格にとても無邪気そうな笑顔を浮かべ、ずいっと
身を乗り出してきた轟に、思わずの肩がびくっと揺れた。
突然のことに伊丹も驚いたようにを見やりながら、轟の肩を軽く抑える。
しかし、轟は気にせずににっこりと笑いかけた。



さんは仕事何やっているんだい?」


「え?・・あ、えとね・・警・・・・ゴフッ



フォークにパスタを絡ませながら「のへ〜」と開くの口を、化粧直しから戻ってきた由香里が慌てて塞いだ。
驚きに目を見開いているに代わって、呆気に取られている伊丹と轟ににっこりと微笑む。



はね、公務員なの。毎日忙しくて全然出会いがないのよ?」


「ちょっ!由香里!!」




伊丹がなぜか安心したような表情を浮かべているが、そんなことに気を止めずに
は不満気に由香里を睨みつけた。



「私は相手探してないからいいのよ!」


「あら?そんなこと言っちゃってぇ。伊丹さんと仲良く話ししていたじゃない。
チャンスは逃しちゃダメよ!」


「だから!違うって!!!」






「へー公務員なんだぁ!出会いがないって女性ばかりの職場なのかい?」


さらに轟が身を乗り出してきて、と由香里は一瞬顔を見合わす。




「やるわね、

「だ〜もうっ」




小声でこづいてくる由香里を睨みつけながら、轟へと顔を向ければにこにことへと微笑んでいる。
そんな轟につられるようにして笑うとちらりと伊丹を見やった。







(俺のことバラすんじゃねぇ!)




なにやらすごい殺気を突きつけている。




「ん、ま・まあね・・。上司も女性で本当に出会いがないの」





大嘘である。



がいる鑑識課は周りは男だらけ、女性鑑識官はを含めても5本の指で数えるだけ。
そして、警視庁全体をみても圧倒的に男性職員が多い。









(ってなんで?!私サクラじゃなかったの?これじゃぁ、私も相手探してますって言ってるもんじゃない!
だいたいなんで、こいつに睨まれ気使わなきゃならないのよ!)




「お二人は何をしていらっしゃるんですか?」




唇を噛み締め、テーブルの下で力強く拳を握るの横で由香里が
にっこりと優雅な笑みを轟と伊丹に向けた。



「おうっ俺は職人業さ!」

「こっ公務員です!」



意気揚々と答える轟に、堅くなりながら口を開く伊丹。
そんな伊丹の答えには口を半開きにしてぽかーんと見つめた。
そんなの表情を読みとった伊丹は、由香里から見えぬように口パクで威嚇する。


(俺は真剣なんだ。邪魔すんじゃねぇ)



「まぁ、伊丹さんも公務員?ひょっとして職場は男性だらけ?」



「はいっ。そうなんですよ」





うん、確かに捜査一課は男ばかりだ。


様々な話に華が咲く、にアプローチしていた轟は雪江となにやら談笑している。
も坂下や石崎と話を交わし全然興味がなかった合コンにも関わらず、さまざまな話に花を咲かせていた。
やはり思っていたとおり、亀山を連想させる石崎はとても明るく妙に子供ぽい人柄で
とても話しやすく思わず話が弾んだ。坂下も見た目のとおりかなりプレイボーイらしく
石崎とはまた違った視線をビシビシとに向けてくる。
これが世の女性いわく悩殺ビームってやつだろうかとは小さく心の中で苦笑いをした。
気づけば坂下と浩子、轟と由香里、石崎と雪江とのんびりとした空気があたりに漂っている。
は小さく溜息をついて伊丹の隣に腰を下ろした。


「まさか、あんたがいるとは思わなかったわ。何?本気で相手探してるの?」

「悪いかよ。お前もだろが」

「私はサークーラ。相手探してないのっ。」


苦々しい表情の伊丹に気にせず、はレストランオリジナルのビール瓶を手にとり伊丹にすすめる。
コポコポと良い具合に泡立つビールの泡を眺めながら、チラリとの顔をのぞきこめば警視庁では見られない、
いや伊丹の前では見せたことのない穏やかな表情に、思わず小さな電気が走り巡る。




「・・・何か変な気分だな」

「何が?」

「てんめぇに酒ついでもらうなんてな」

「ははーぶっかけるよ?」


意地悪な笑みを浮かべて見据えてくる伊丹に、にっこりと冷気を纏った笑顔を向けるが、
不思議と二人の間にいつも流れている険悪なムードは見あたらなかった。
職場とは違った感情が、伊丹と話してみたいという感情が自然と口を開かせる。


「ねえねえっ、フットサルってどんなルールなの?」


「あ?あぁ・・そうだな」










「ぐ・・ぐぅっ」


「どっどうしたの!」

突然テーブルの端から呻き声が上がり、 坂下が苦しそうに胸を押さえながら立ち上がった。
ペアを組んでいた浩子が慌てて坂下を支えるが、坂下は浩子を押し退け床へと倒れこみのたれ回る。
浩子と由香里が慌てて坂下に走りよる。

「坂下!どうした!」

轟と石崎、そして伊丹も慌てて立ち上がり、も不安気に立ち上がった。

「ぐ・・う・・」

顔を蒼白にしている雪江を支えながら坂下を見やれば、カクリと肩を揺らし動かなくなった。








「ちょ・・坂下・・さん?」



「触らないでください」









みるみると顔が青ざめていく坂下に触れようとした由香里を、伊丹の厳しい声が遮った。
由香里と浩子に坂下から離れるように促し、険しい顔で坂下へと屈みこむ。
雪江を浩子に託すとも伊丹と向かい合うように坂下へと屈みこんだ。
そっと首筋に指をあて顔を顰めて伊丹へと首を振る。


微かなアーモンドの香り・・・皆!テーブルのもの一切に手を触れないで。
伊丹刑事、署に連絡を」


「あぁ」


「けっ・・刑事?」


驚きに声を上げ、伊丹を見つめる浩子にはしまったと伊丹を見つめるが、
伊丹の顔はすでに刑事の顔つきとなり素性を隠すどころではない。
も鞄から常備している白手袋を取り出しはめて、坂下の体を調べた。そんなの様子に轟が首を傾げる。



「しっさん!今伊丹が触るなって言ったばかりだよ?」


「あーいいんだ轟。は警視庁の、鑑識の人間だ」


「「は?」」


険しい顔つきで携帯電話を取り出しながらそう告げれば、素っ頓狂な声を轟と石崎があげた。



「じゃあは伊丹さんのこと知ってたの?」


雪江が坂下の体を調べているに訪ねた。



「うん。まさかこんな所で会うなんて思いもよらなかったけどね。
・・・青酸カリによる服毒死。食べ物に混入されてたのかしら。」


電話を切り終えると、伊丹は皆をテーブルから離れたところへ促し、の元へと戻ってきた。



「すぐに来る。服毒・・他殺か?」

「まだ断定できないね。毒が混入されたものが何かもわからないし・・・あれ?」

「どうした?」

坂下の右手を調べていたがふと首を傾げた。
右手の平に鼻を近づけている様に伊丹は怪訝そうに見やる。


「微かに青酸カリが付着してる。何かに触った?」

「となるとテーブルか。俺の記憶に間違いなければ坂下は一度も席を立っていない。」




伊丹とはテーブルを凝視した。
テーブルには今夜、の舌を大いに喜ばした食事や酒が宴の再開を待ちわびているように
鎮座している。



「こいつが自殺するとは思えねえ」



苦々しい伊丹の言葉が妙にの耳に残った。