+相棒連鎖+
「さん、こちらもお願いします」
「はい!」
緊迫した事件現場にのシャンッとした返事が響いた。
朝登庁とともに鳴り響いた一本の要請電話。すがすがしい朝が生々しい殺人事件現場へと変わり、
は気分を落ち込ませるも、大きく深呼吸をし気分を入れ替え現場であるマンションへと急行した。
同僚の米沢が指し示した箇所にカメラを向け、これが一つの手がかりになるようにと祈りながらシャッターをきる。
「っおい!一般人を入れるな!」
部屋の外で神経質そうな怒鳴り声が響き、シャッターをきっていたはわずかに眉を不機嫌に潜めた。
「ご苦労さん、米っ!何か出たか?」
ズカズカと部屋に入ってきたのはやはりが眉を潜めた人物で。
捜査一課刑事・伊丹憲一は白い手袋をはめながら、ワイングラスを丁寧に調べている米沢を見下ろす。
「えぇ、かなり残してますね。」
「そうか・・・・!・・・」
飄々と答える米沢に小さく頷くと、伊丹は部屋の中を見渡した。
その瞬間、カチッと伊丹との目が合いは顔を嫌そうに顰めて逸らし、伊丹はにやりと笑ってを見据えた。
「よお、鑑識のさんよぉ」
「っつ・・出たよ」
ツカツカと歩み寄ってくる伊丹には小さく舌打ちをして、さも作ってますな笑顔で伊丹に向き直った。
「わーびっくりしたー。ご苦労様です捜査一課の嫌味な伊丹刑事」
「てめ・・」
棒読みで口を開くに僅かに伊丹の口端が引きつった。
さらに口を開こうとするがそれを三浦に止められる。
「伊丹、油売ってねぇで検証だ」
「あ・・悪い…」
「で?今朝の事件はどうだったよ」
「むぅ〜お昼ご飯くらいゆっくり食べさせてよぉ〜」
「うっ;これまた失敬」
誰もが寛ぎに肩の力をほぐす昼の庁内食堂。
嬉しそうに海老フライを口に運んでいたは顔を顰め、目の前に座る亀山を軽く睨みつけた。
亀山の隣では小さな笑みを浮かべながら、食堂にまでお気に入りのカップと紅茶を持参し堪能している杉下が、
そしての隣には米沢が腰をおろし、鑑識課と特命係というなんとも珍しい面子が
(しかしこの食堂では見慣れた光景である)ともに昼食の一時を過ごしていた。
「ご飯くらいゆっくり味わせてよね」とむくれるに亀山がすまなそうに肩を窄めてみせると、
その隣でコトリとティーカップを置く杉下。
「しかし、悲しい世の中ですねぇ」
小さく波紋を作る紅茶に視線を落としながら呟かれた杉下の言葉は、今朝起きた事件のことを指しているのだろう。
亀山と、そして米沢は一瞬疑問の表情で顔を見合わせるも、杉下の言わんとしていることをすぐさま汲み取り、
各々手にしていた茶碗やカップをテーブルの上に置いた。
「警察はことが起きてから動きだし、早期解決に全力を尽くします。
もちろん、それにも大変な労力を必要としますし重要なことです」
「・・だけど、ことが起きる前に防ぐことはできないのか・・
と言いたいんですね?」
「・・・えぇ」
杉下の言葉を亀山が続ければ、静かに頷かれる返答。
思えば最近は事件続きである。
緊迫した空気の中で己の職務に向き合っている時は気にしている余裕などない。
しかし、こうした一時の安らぎの時間に思い起こしてみると、毎年増えていく事件の多さに気が参りそうになるのだ。
「我々鑑識も事件が起きてからではないと動けませんしね」
緑茶をすすりながら、米沢が静かに息を吐いた。
静かな静寂が4人に流れる。杉下はふと顔をあげると小さく笑った。
「おやおや、僕のせいで気分を暗くさせたようですね。さん食べてください?午後も忙しいでしょう」
「え?・・あ・・はいっ」
滅多に協力要請がかからない特命がひっきりなしに出たり入ったりしているこの頃。
杉下も些か疲れているのだろう。表情は変わらないが淹れている紅茶の葉がいつもより多いことに、
亀山は小さく息を吐いた。
「特命係の亀山ぁ〜」
「んだよ!いちいち特命つけんなよ!」
ようやく箸を進めはじめたの耳に聞き慣れたフレーズが鼓膜に響いた。
一瞬顔を顰めるのを横にいた米沢が素早く見抜き、小さく苦笑いをする。
亀山との間に立ちはだかるように現れた伊丹は、小バカにするように椅子に座っている亀山を見下ろすととハッと鼻で笑った。
「ほ〜?特命係亀山の本日の昼食はありきたりなミックスフライ定食か。
一番安い奴だなおい。給料少ねえもんなぁ。」
「うっせえな、何食おうと俺の勝手だろうか!」
「480円」
「てめっ。だったらてめえは何食ったんだよ!」
「限定和食膳」
「っまじかよ!狙ってたのに!!」
「500円じゃない。大して変わらないわよ」
「はっ、負け惜しみですかねぇ鑑識のさんよ〜・・・!?」
亀山と伊丹の間に割って入ってきたの言葉に、伊丹は意地悪そうにを見据えた。
が、その瞬間伊丹の目が一瞬見開く。が食していたのは亀山と同じミックスフライ定食480円だった。
気まずそうに舌打ちする伊丹ににっこり笑う。
「えぇ、給料少ないですしぃ?ありきたりかもしれませんが?
私の大〜好きな海老フライがあるのはこのミックスフライ定食480円だけですしぃ?
それをわざわざ限定食自慢されたくもないですわ〜?」
「ちっ、だいたい何で特命と鑑識が揃って食ってんだよ。おいっ米!また情報流してんじゃないだろうな」
「うっさいな〜。誰と食べようがあんたには関係ないでしょう?
他の課の人と食べるのにいちいちあんたの許可がいるっていうの?あーやだやだ」
米沢に食ってかかる伊丹をさらにが厳しい目で睨みつけた。
初めはの応戦に胸を張っていた亀山も、伊丹との冷気を伴った睨み合いに得意気な笑みが薄っすらと消えていく。
「てめぇ・・まだ根に持ちやがって。かわい気ねぇな!」
「なによ!そっちこそ女々しく引きずっちゃってさ!」
「あー?早く食べないと昼休み終わっちまうぞ?伊丹もこんなとこでやめろ?;」
亀山の宥めも虚しく、伊丹とは互いに睨み合っていた。
捜査一課の伊丹と特命係の亀山の因縁は本庁の人間ならば誰でも知っていることだし、二人の低レベルな言い争いは
ちょっとした名物となっていたりする。
しかし、その伊丹にもう一人、天敵がいるということはあまり知られていないであろう。
いや、じつはほとんどの人間が知っていることなのだが、亀山とは違いかなり激しい口論となるために
皆黙って見守ることしかできない。いつだか、二人が口論中に「お、夫婦喧嘩か?」と茶々を入れた
生活安全部の角田がのメヴューサ如くのすっさまじい一睨みを買ってしまい、
一週間寝込んだといういわく付きなのだ。まさに触らぬ神になんとやら。
しかし、なぜここまで伊丹とがいがみ合っているのか。
ことの発端はが捜査一課に提出した資料にあった。
その資料を知らずに伊丹が別の所に置きっぱなしにし、提出されていないと鑑識課に怒鳴り込んできたことだった。
事態はすぐさま落ち着き、捜査に支障はなかったのだが、
我が強すぎる、譲らない二人の性格が災いして顔を合わせる度にネチネチと言い争いする結果となり、今日まで至る状況である。
そんな日が続いたある日のこと。
(でね!ど〜っしても一人足りなくてさ。来てくれない?ほらっだってまだフリーでしょ?)
「いーやーよ!男作る気なし!合コンもいやっ!それに仕事だって山積みだもん」
退庁時間を過ぎた鑑識課。
帰り支度をするの携帯電話に大学時代の友人-滝乃 由香里から合コンの誘いが入った。
面倒くさそうに断るのを、向かい席の米沢がクスクスと笑っている。そんな米沢にんべっと舌を出しつつ、
電話の相手に集中する。
(あんたもう31になるのよ?!いい!私にまかせなさいよ!)
「いや・・由香里にまかせたらよけいに遠慮;」
(今度のお相手はフットサルチームを組んでいる男よ!にぴったりな人いるかもよ?)
「興味なし・・(そ〜れ〜に!)」
力なく断るの言葉を由香里が勢いよく遮る。
(店はあ・の・イタリアンレストラン、”地中海ナポリよ”!)
その言葉にの体が一瞬にして凍りついた。
見開いた目のままで、米沢が軽く手を振ってみせるがが驚愕の顔はさらに深まるばかり。
「なっなぬっ!あの予約も滅多にとれないレストランの?!」
(そっ。それになんと飲み放題!ねぇ、サクラでもいいから来てよ〜人数合わないと形にならないの〜)
「食べ物に負けましたねさん」
携帯をきったをニコニコと米沢が見つめていた。少し気まずそうに顔を赤くしながらは小さく頷く。
「うん・・あと飲み放題;」
「さんらしいですね、まっしばらくここに缶詰状態でしたからね。
調整しますから息抜き気分で行ってきてくださいよ。」
「あぅ、ありがとうございます;」
米沢の優しい笑みにはにへらと笑った。
確かにここ最近は家に帰れる日も少なく、缶詰状態だった。
花より団子なにとって合コンは限りなく拷問に近いが、あのレストランでとなれば
話は別である。
「気晴らししてこよーっと」
「うんうんvそうしてくださいv」
それから約束の日はあっという間に訪れてしまうわけで・・・
は電話をよこした由香里とそしてもう二人の同窓生と待ち合わせのために
レストラン近くの公園に向かった。仕事を終えてからのために、黒のカジュアルスーツに
肩にぎりぎり付かない髪はセットをしようにもあまりお洒落に気を使ったことがないので、櫛を適当に通しただけ。
それでもすらっとしたスタイルに颯爽と歩く姿は、人目を引いている。
やや急ぎ足で公園に到着すれば、すでに面子は揃っていた。
今回の合コンの主催者である由香里はさすが相手を探す目的のために来ているだけあって、
長い髪を丁寧にカールし、淡いピンク色のアフタードレスで甘めの女性を演出。
そして同窓生で165センチのよりも背が高い神田浩子はボーイッシュなショートに
皮パンとジャケットで一見キャットウーマン風に。仲間内でも一番おとなしかった秋沢雪江は
セミロングの髪に淡いブルーのコーディネート。
久しぶりに再会を喜ぶも由香里がいそいそとはやしたて、一向はレストランへと向かった。
「えー、私達は大学からの友達なんですよvサークルをやっていたんです。
で、皆さんから見て左から秋沢雪江、神田浩子、私が滝乃 由香里。でこの子がです!」
「いやあ、皆さん美人揃いですね!!俺達は草野球ならぬ草フットサルのメンバーで
俺は坂下健。で、その隣が石崎竜一に轟悠太、そして皆から見て一番右が伊丹憲一だよ。今日はよろしく!!」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「「なんであんた(てめえ)がいるの(んだ)よ」」
伊丹とは驚きに目を見開きつつも威嚇するように睨みあっていた。
今夜はゆっくり息抜きなんてできそうにないよぉ・・・米沢さん!!(><)
やっちゃった;とうとうやっちゃった;
ずっと考えていたもの;二部構成の予定だったのですが自分の文才のなさに三部構成となりました;(逝け)
頑張って完結させます!!