+いつもと違うこと+














「何やら亀山君の様子が気になりますので、僕も北海道へ行ってきます。
お留守番お願いしますね、さん」


と右京さんも北海道へ向かった。今特命係には私一人。むうっつまんなーい!
私も右京さんと一緒に行けば良かったなぁ。
まぁ、やるべきことは選ぶほどあるから仕方ないんだけど・・・




「おいぃ、茶がねえぞ茶あ」


「・・・・はあぁ・・」


なんでこいつがいんのよぉ〜


盛大な溜息をつくと、向かいの亀山のデスクにえっらそうに腰をおろし、茶を出せと催促している男を見やった。
特命の二人がいない日でもいつも通りに出勤し、仕事をしているの耳にタコができるほど
バラエティーがない聞きなれた亀山にも放たれる台詞が鼓膜に響く。





「よぉ、置いてけぼりの〜!」




訂正、多少はあるらしい。
にらめっこをしていた書類に視線を落としたまま盛大に溜息をつき顔をあげれば、
やはり見慣れまくった捜査一課の伊丹がででーんと、特命係の入り口に立ちはだかっていた。
いつもなら即言い返すだが、顔をあげ伊丹を見据えた瞬間固まる。




「あれ?とうとう捜査一課から追い出されたの?」



「ちげぇよっぶわぁかっ!今日は非番だ非番!」




見慣れているスーツ姿の伊丹は黒のカジュアルパンツにカットシャツ、そして紺色のコートを羽織り
ワイン色のマフラーをかけていた。
の問いに苦々しく見据えるとすすめていもないのに、どっかりと亀山の席に腰をおろす。
デスクの上に山積みになっているチェック済みのファイルを一冊取り上げ、鼻で笑った。


「はっ。特命にも仕事らしい仕事があるんだな」

「うーるーさーい。非番なら何登庁してんのよ。ほらっ返してっ」

「ぁあ?ちょっとな。もう済んだからよ。顔出しただけだ」

「じゃあ、とっとと帰れ。このすっとこどっこい」



しかし、伊丹は出ていこうとせず冒頭の現状に戻る。





手元のファイルが山積みのため、は伊丹を無視しファイルに没頭することにした。
はじめは亀山のデスクに並べられていた警察関連の本をぱらぱらとめくっていた伊丹だが、
いつの間にかがチェックしたファイルを整理している。




「ちょっ、やだぁ手伝わしちゃってるじゃない!いいよ、置いてて」

おもむろに顔をあげたはいつの間にか、コートとマフラーを脱ぎ本格的に作業をしている伊丹に顔を顰めた。
「久々にとれた非番なんでしよ?疲れだってたまてるでしょうにぃ」と申し訳なさそうに付け加えれば、
ほんのり顔を赤く染め動きが止まる伊丹。


「つっ、ついでだついでっ!気にすんなっ」


「突然の非番で何も予定ねぇんだよ」と少し慌てながら再びファイルへと視線を下ろす。
実は、特命の邪魔者二人がいないから登庁したのだ。
と二人きりになれるチャンスだからともちろんに言えるはずもなく。





















「ありがとう」













ふわりと耳を掠めた柔らかい言葉に、伊丹の手がピタリ止まる。
サッ顔を上げればにこにこと笑みを浮かべながら、ファイルへと視線を落としている
なぜかその言葉がとても嬉しくて伊丹も再びファイルへと視線を落とした。





ゆったりと穏やかな時間が過ぎていく。



粗方片付いたファイルに体中からだる気を追い出すように、深く息を吐いた。
思いっきり伸びをして向かい席の座る伊丹を見やれば、トントンとファイルを揃え小さく溜息を吐いている。
そんな様子に小さい笑みを浮かべると伊丹の背後にある時計が目に入り「あ」と小さく声をあげた。
いつの間にか時計は三時過ぎをさしていた。朝早くに出てきたのに、もうこんな時間かと驚く。
そういえばお昼も食べてないと空腹をおぼえ、席を立った。




「今私だけだから、玄米茶しかないんだー。飲む?」

「あ?おぉ、さんきゅー」

「カステラ作ったんだー食べる?」

「まじか?おうっ食うぞ!」


ぱあっと伊丹の顔が明るくなるが次のの言葉で、苦々しい表情へと戻る。


「角田係長もどうぞ」

「おっあるか?あるか?」


特命室の入り口で様子を伺っている角田ににこりと進めれば、やったと言わんばかりな顔で入ってくる。
羨ましげに少し離れたところで眺めている角田の部下にも手招きすれば、いそいそと入ってきて。
伊丹はつまんねぇといった不機嫌さを押し立たした顔で茶をすすっている。


(んだよっ。せっかくの二人きりなのにっ)


「おっ非番か?非番か?」

「見りゃあわかるだろっ」


カステラを頬張り角田が意味あり気に肩を叩けば、伊丹はさも面倒臭そうに吐き捨てる。



「非番の日も熱心に通ってるのか?エライねぇ〜。鬼のいぬ間になんとやらか?」


「ばっ・・っつ、うっせ!?ちげーよ!っつか聞け!」


がばっと立ち上がり否定を主張をするも、角田&部下はにやにやと足早に持ち場へと戻っていってしまった。
苦々しく生活安全部を睨みつけ、ハッとしてちらりと横目でを見やれば、
「へへー今日のカステラはうまくできたー」と嬉しそうに口に運んでいる。
今の話を聞かれず、ほっと胸を撫で下ろすとコトリと茶碗を置いた。


「ごち。俺帰るわ」


そう踵を返す伊丹の背中に思いがけない言葉がふりかかる。







「あれぇ?もう帰るの?ねっあと一時間半待てない?」











「は?」









「だーかーらー。私が終わるまで待てない?って言ったの!」










突然の言葉に伊丹は一瞬理解ができなかった。
顔を会わせる度に言い争いをしていたから出た言葉はあまりにも突然すぎて、
だけれども、意識のどこかで願っていたかもしれない言葉に動揺の色が隠せない。
一瞬躊躇したものの、結局掴みかけていたコートを再び置き椅子に腰を下ろした。
そんな伊丹を満足そうに見やりながら、残り少なくなったファイルを開く。



「先輩。怪我したものの命に別状はないみたい。よかったv」

「・・・そう簡単に死なねえよっ。あのバカ山は」


穏やかな空気が秒針とともに流れる。


「右京さんにね、ラベンダーの香水頼んじゃった。へへ」

「はあ?北海道っつたら蟹だろ!蟹!!」

「えー。まあそうだけどさー」



緩やかに時は流れて、気づけば退庁の時間。
後片付けを終え身支度を整えると、にっこりと伊丹に向きなおる。



「手伝ってくれたお礼!何か食べに行こう!!」

「おう。・・・待てよ、お前のおごりか!?んなかっこわりいことできるかっ!
俺がおごるっ」

「何言ってんのよ。あんたの給料少ないんでしょ?」

「・・・おめえもだろうが」

「・・・・てへ・・こらまた失敬v」



にやにやと見つめている生活安全部の面々など二人にはもう視界に入ってなどいない。


「じゃあ・・割勘で1品っ私が多く払うっていうのはどう?あっどこかお店知ってる?」

「・・・・・よし決まりだ。あー居酒屋でいいならあるが・・」

「うん!そこにしようっ」




すっかり闇に飲み込まれたビルのジャングルに、肌を刺しつける風が吹く。
少し身震いをする伊丹の手にスルリとの手が滑りこんできた。
驚きに目を見開けば、ほんのりと紅潮したがむうっと口を尖らせる。


「寒いのっ」


「・・・へーへー」



早く暖かい場所へ移動しようと、伊丹はそっとの手を握り歩き出した。
その表情は至極嬉しそうに。























無事返ってきた亀山と杉下はことの始終を角田から聞き、
それからさらに伊丹いじめが拡大するが、そのたびにが「やめなさーい!」と
顔を赤くして伊丹を庇うのはまた別の話だったり。























セカンドシーズンの「雪原の殺意」の時の設定です(知らない方いたらすいません;)
非番の伊丹刑事を書いてみたかったのですと;ただそれだけー;(還れ)